番組内で国内の金庫を開ける企画については、興味はまったくありませんでしたから、別の番組を見ながら最後のアメリカの金庫の扉に挑戦するのを待ちました。
案の定、お門違いな攻略に終始して番組を盛り上げて結局手も足も出ずにギブアップしたのを見て思わずにっこりしました。
いかに日本のテレビ局がアメリカや西欧の金庫について知識が無いことを見せつけましたね。
私が指導をしていたALOAは鍵や防犯に関わる全般についての知識を教育する機関で、私は2007年から2009年まで米国本部の教官として従事していました。世界中から集まって年に一度行われる大会に参加して教育を受けた人達が、その後の資格試験に挑戦して各レベルの資格を習得することで、彼らの就職のためのキャリアとして履歴書に記入が出来ます。
私はこの協会で金庫のダイヤルの仕組みとそのダイヤルの動きから、どのように手探りをすることで最初の数字を導き出し、その数字から次の数字を、また次の数字を順に見つけ出すための理論を教えていました。
何ごとも理論があって教育できるのですから、以前にあった金庫の番組で耳を当ててダイヤル内部の音を聞くシーンを見た際にはあきれてしまい、とても滑稽な事をするものだと思いました。耳の能力の優れた動物ならいざ知らずですが。
韓国や中国はまったく違いますが、米国や西欧の金庫は家庭用やセキュリティの緩い中型の金庫であれば手合わせで開けることは出来るでしょうが、それ以上のものには手探りが出来ないようなトリックが施されており、そのため穴を開けてスコープで覗き金庫内部のダイヤルを合わせるのが金庫攻略のセオリーです。
日本の金庫ならばそのような仕組みはほとんどありませんので、手探りによる開扉は理論的に可能です。しかしこれも天才的な感性と手探りで導ける理論を持った人達だけが攻略できる特別なものです。なんとかのかぎの学校とか、なんとかの団体や、協会に、そのような技術を持っているかのようなものを見ると思わず私はフーンと思ってしまいます。そんなに簡単にできるのなら本当に凄いです。
ちょっと前置きが長くなりました。ALOAの下部組織にSAVTAという金庫専門の職人が集まる協会があります。ここには本当のプロ集団がたくさんおりそこでは日々教育をしたり講習会を開いて技術の向上に
努めています。おそらく本日最後に出てきた彼らはそこに所属する人達だと思います。
私は金庫を手探りで開ける方の本部の講師として3年間(2007年ー2009年)アメリカで活動しましたが、現在でも私以外にアジア人として講師になった者はいません。(協会の歴史は70年余りあります)
私が知っているだけでも各種のとても堅い超硬のドリルの錐があり、それに併せて技術と道具があって初めて金庫を攻略できるのですが、番組内で紹介されたあんなに小さな金庫はどんなに古くても、あれが銀行の金庫だというのですから大笑いです。
現実を調査して見せるのなら事情を知っている私も納得出来ますが、あれがアメリカの銀行の金庫と紹介するあたり総合演出をしているディレクターのつじつま合わせが見えるような気がしました。
国内でも手合わせで金庫を開ける専門の職人は知っておりますが、米国にある本格的なダイヤル自体
そう簡単に開けられるものではありません。
今も毎年出演依頼がありますが、すべてお断りしています。私は金庫の職人と言うよりも理論を教える側ですし、本部講師としてのステータスは今も健在ですが、もう老人になりました。
現在出られている若い方々に、お茶を濁しながらバラエティとしての金庫の企画でおやりになるのがいいでしょう。
私が9年前に日テレで出演して以来金庫の企画が始まったのですが、その責任を感じますね。
当時テレビ局の意向で見せた道具の数々も、今になってみれば茶番であったような気がしますが日本で一番最初に数回出たことはそれなりに価値はあったかもしれません。
本日は所さんの番組内の企画に引きつけられて見ましたので、補足の意味でコメントを致しました。
他意はありませんのであしからず。
田舎の鍵師 桑名隆