失われた明日を求めて──『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』 | ますたーの研究室

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英詩を研究していた大学院生でしたが、社会人になりました。文学・哲学・思想をバックグラウンドに、ポップカルチャーや文学作品などを自由に批評・研究するブログです。

 

はじめに

 

2度の公開延期を経て、10月31日に公開された今年のプリキュアの「春」映画、『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』を鑑賞しました。

 

『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』(C)2020 映画プリキュアミラクルリープ製作委員会

 

本作の感想を一言でまとめると、物語は大変シンプルにまとまっており、シンプルだからこそ完成度の高い作品でした。

本作を簡単にまとめると、タイムリープという強力な骨格の中にプリキュアのエッセンスが詰まっているという物語内容です。というか、それしかありません。

 

本作はかなりしっかりタイムリープものをやっていて、仕掛けそれ自体が面白いというタイプのお話です。

タイムリープという形式と、3世代のプリキュアが揃うという最近の春映画の形式の、2つの形式が綺麗に合わさっていたところがたいへん好印象でした。

シンプルな挿話に、高品質な作画とアクションが乗っていて、ここ最近の春映画の中でもかなり完成度が高い作品だと思いました。

内容そのものというよりも形式で勝負をしており、形式的なところがとても上手にまとまっていたところが自分にとってポイントが高かったのでしょう。いい映画でした。

 

本作はとにかくシンプルな良さが際立っている映画なので、この感想記事もなるべくシンプルに書いていきます。

 

ループする世界に抗うプリキュアの意志の力

1日が繰り返されているという世界、あるいは運命の在り方に、個人の意志の力で抗うというのがすごくプリキュアらしい。

タイムリープという形式の中で、プリキュアのエッセンスがぎゅっと詰まっていると評する所以はここにあります。

 

本作では3回のループ模様が描かれ、今日を繰り返すリフレインとの戦いが3回提示されます。

1回目は普通に負ける。2回目はわかっているのに負ける。でも3回目は、意志の力で変えようとする。

2回目のループでも、1回目と同様に、のどかは部屋に転がっているボールを踏んで転び、トーストを焦がし、ジャマシックパークの話をして、水たまりに突っこみ、トラックに轢かれそうな男の子を救います。「わかっていたのに、やっちゃった」とのどかはつぶやきます。

ループされる「今日」の中で、ミラクルンライトのおかげで記憶を維持しているのどかたちでも、世界の因果律には抗えないかのような描写が繰り広げられます。

 

 

しかし、3回目のループでは、踏んで転ぶ前にボールを拾い、焦げる前にトーストを取り出し、フライングでジャマシックパークを答えて、水たまりを避け、トラックが来る前に男の子に「危ないから飛び出しちゃだめだよ」と注意します。

ここの「ループされる運命を、今度こそ意志の力で変えるんだ」という見せ方が、シンプルでありながらとても効果的に決まっていて見事でした。

 

 

そして、ループを繰り返す中で戦い方を変えて、最後のループでは3世代のチーム替えをして戦うというところは、タイムループの仕掛けと3世代登場する春映画の仕掛けが一番うまくかみ合っていたところで、ここは素直にうますぎて感心してしまいました。2017年の『ドリームスターズ』に端を発する、3世代の競演という春映画の形式を最も上手に生かせていた発想だったと思います。

 

『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』(C)2020 映画プリキュアミラクルリープ製作委員会

 

輪廻する時間と直線する時間

本作のゲストキャラはミラクルンとリフレインですが、どちらも時間を代表する妖精です。

 

ミラクルンは学校の桜の精で、リフレインは校舎(大きな時計がついている)の精という設定が面白かったです。春が来る度に桜が咲くという輪廻の時間と、時計が示す連続的で単線的な時間をそれぞれ代表していると捉えられます。リフレインは校舎を取り壊されるのが嫌で、壊される日が一生来ないために今日を繰り返し続ける。

 

輪廻の時間もある種のループですが、どこか一点を起点として時間が巻き戻っているような在り方ではありません。リフレインがやることが成立しうるのは、あくまで直線的な時間感覚の上のみです。

 

 

最後の方はリフレインをどう救うのかと少し危惧しながら観ていましたが、同窓会の挿話と結び付けて、「ループを脱していなければ再びにぎやかになってくる校舎を見ることはなかった」というところに落とし込むのかな、と思ったところで、もう一歩進んで保存を願うというところまで行ったのは、ちょっとやり過ぎ感があったけど、いい落とし所だったと思います。

輪廻ではなく、再生をするというところで物語は締めくくられます。

このシーンのリフレインとミラクルンが寄り添って微笑んでいるカットが印象的で、二つの時間感覚のどちらか一方を否定するのではなく、両方を尊重するような在り方がとてもいいと感じました。

 

 

輪廻的な時間感覚と、直線的な時間感覚は、両者のバランスが均衡していることこそが最も重要なのである。私はそのように捉えました。

リフレインの、可哀想に思うけれども理不尽かつわがままな意志でバランスを崩してしまった時間の在り方を、プリキュアが回復させるという本作の解決の仕方は、時間性の物語をやっていた『HUGっと!プリキュア』でも成立しうる内容だったろうけれども、「病気になった地球をお手当て」と治療、回復のモチーフの物語を展開している『ヒーリングっと♡プリキュア』にこそふさわしい挿話だったように感じます。

 

 

ところで、リフレインが言うには97回目の「今日」を繰り返しているところで、えみるが「昨日はルールーとお買い物をした」という話をしているところは興味深かったです。

 

ここは、時間の問題は結局のところ人間の認識の問題ということを表わしているように感じます。

客観的・第三者的な観測者からしたら、今日をループしていることになるわけですが、そのループの中にいる当人の記憶がその都度リセットされていたら、繰り返される今日はいつでも新しい1日であることに変わりはありません。

ミラクルンライトを持っていたヒープリチームは1日がリセットされても記憶がリセットされないという特権的な立場にいるものの、その位置を占めるまでには、映画本編では描かれていない90回以上の敗北と今日のループを繰り返したということに思い至ると、少し薄ら寒い感じもしてきます。

 

翻って今を生きる私たちの世界、いわゆる「第4の壁」がない世界においては、繰り返される今日は未来ではないと、誰が言いきれるのでしょうか。むしろ、時計やカレンダーなどの装置があるおかげで、私たちは昨日・今日・明日を区別しているような気もしてきませんか。

 

おわりに

本作はシンプルであるからこそ物語の強度が高く、とてもよくまとまっていたプレゼンテーションを清聴したかのような満足感と腹落ち感がありました。だからこそ「時間」にまつわる抽象的な思考をも読み込める余地があって、意外と侮れない物語作品であったように感じます。

 

 

余談ですが、これは村山さんの作風の特徴でもあるのですが、いちごメロンパンとかジャマシックパーク等々、サブリミナル的に村山さんが手がけた過去作をダイマしてくるのは笑ってしまいました。思えば、村山さんは『プリアラ』の秋映画である『パリッと!』に、特に何の伏線や脈略もなくまほプリチームを呼び出していましたし。

 

まあ、次回の映画もプリキュア5とヒープリの話なので、春秋問わずチームの縛りとかを考えずに自由に出したいプリキュアを出してくれてもいいという感じが個人的にはしています。というか、次回作は夢の話をするので、ちらっとでもいいから『Go!プリ』チームも登場してほしいです。よろしくお願いいたします。