6月29日放送「死亡退院 さらなる闇」(NHK HPの概要)
 去年2月、東京八王子にある精神科・滝山病院で虐待が発覚。看護師らが逮捕され、東京都は改善命令を出した。事態は解決するかに見えた…。しかし、患者の転退院は思うように進まず、死亡退院率は高いまま。なぜなのか?独自取材から見えてきたのは、患者の引き受け手をめぐる精神科病院や行政の現実、家族会の本音。さらに、滝山病院の「過剰医療」をめぐる不可解な実態だった。その内実に、内部資料や関係者の証言から迫る。

 

 過剰な医療(心筋梗塞の偽装)、不十分なケアによる深刻な褥瘡による敗血症死の連続などがカルテから明かされる。過少な常勤スタッフによる無責任体質、院長に多額の報酬(平均60百万円)なども取り上げられた。

 

 さて、都による改善命令が出され、患者の転退院が進められたのだが、1年経っても進んでいない。一時減少した患者も、増加に転じている。院長は退任を宣言したが、後任が見つからず、居座ったままとなっているという。

 

 ちょうど1年前、東京新聞が、精神科病院協会会長の山崎氏にインタビューした記事を載せた。私は、山崎会長に意見がまともだと思った。

 

 本件番組でも、山崎会長は、精神病患者が、透析を必要としたり、他の合併症をもった場合、民間の精神科病院は単科がほとんどであるため対応できない。こういうときのためにこそ公立病院の存在意義があるのではないかと主張している。さらに、都立病院に、透析病棟などを併設すればよいのではないかと指摘する。

 

 NHKは、都立病院を取材しているが、実質ノーコメントであったし、現実に、滝山病院の患者を一人も受け入れていない。

 今回、第三者委員会座長の弁護士、精神病患者を支える弁護士、患者団体の主要人物にインタビューしているが、内輪もめぽくなっていて面白い。

 

 名古屋大学の医療安全に専門家によれば、医療体制は、医療スタッフの性善説にたって自律的な医療の安全性が確立する建付であって、本件みたい場合に対処するには法令から直されないとダメらしい。なお、当病院の院長は、不正請求をした訳ではないので、保険医の資格ははく奪されないらしい。

 

 患者団体の代表や弁護士は、当初は滝山病院を廃止するべきと思ったという。しかし、実際には難しい患者の受入先は乏しく、現在では滝山病院の立て直しを考えるべきかもしれないと感想を述べた。そもそも、一般病院は、入院中の精神病患者の手術だけはしても、すぐに戻れというなど、そもそも病院全体や社会全体に問題があることを指摘する。

 

 滝山病院は、合併症を持つ精神病患者の受入先は「無い」ことを実に上手に利用したことになる。たぶん、普通にやると採算が難しいから、不十分なケアでコストを削減する、過剰医療を行い医療費を増やすことで、儲けを出していたのであろう。これに対抗するためには、ほかにまともな医療を施す医療施設をつくるしかなく、公的医療の枠組みで対処するしかないのは、真っ当な主張だと思うのだが、東京新聞は、気に食わなかったらしい。