JAPEX2018 出品作品:速達郵便物上における「速達料金○銭徴収」および「窓口」表示の研究 | 郵便・切手から 時代を読み解く

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切手コレクター必見! 経済評論家にして郵便・切手評論家でもある池田健三郎が、辛口トークと共に「ゆうびん」や「切手」を通じて時代を読み解きます。
単なる「切手あつめ」や「郵便物コレクション」とは次元の違う、奥深き大人のライフワークの醍醐味をお伝えします。

JAPEX2018のワンフレーム・クラスに『速達郵便物上における「速達料金○銭徴収」および「窓口」表示の研究』と題する作品を出品することにし、既に作品を完成させました。ちょうど郵便史のカタログも発売されるようですので、この新刊本を片手にこの作品を観ていただければ、より理解が深まることと思います。

 

画像は1頁目のタイトルリーフと2頁目のリーフです。

 

 

タイトルページに記載の通り、この展示は、約3年3か月間だけ実施された、速達郵便物上の特殊表示のみに焦点を当てた研究成果を示す郵便史の専門コレクションで、1フレームが丁度ギリギリの規模で、2フレーム以上にはならない主題なので、必然的にワンフレーム展示となりました。特別に高価なマテリアルが含まれるものではないのですが、ここまでの質と量にするのに、30年以上の期間を要しています。

日本の郵政当局は、1937(昭和12)年8月16日をもって、従来の「別配達・速達・内国航空」の3制度並存を改めて「全国を網羅する速達」として一本化し、今日に至る速達サービスの礎を築いたことは、このブログでもたびたびご紹介している通りです。


この速達制度全国実施による郵便逓送スピードの急速化は、わが国郵便史上において極めて重要なサービス改革であり社会厚生を高める取り組みであったことは間違いありません。それと同時に、利用者は、速達郵便物を郵便窓口で差し出すのみならず、ポストに投函することもできたので、全国サービスとしての「速達」の利便性は当初はかなり高かったものと推定されます。


もっとも、増料金である速達料はやや複雑で、受取人の所在地により金額は異なりました。

 

名宛人が郵便区市内(当該郵便物の配達担当局のエリア内)である場合には8銭と書状基本料の2倍相当の安価なものでしたが、郵便区市外については旧制度の別配達の名残から、一挙に金額が跳ね上がります。すなわち、配達局から8kmまでならば30銭、さらに遠い場合には8km毎に25銭が加算されるという体系になっていましたので、これは書状基本料金の7-8倍以上を加算することになりますので、なかなか高価なサービスでした。


こうしたなかで、郵便窓口で速達を差し出す場合においては、予め郵便局員が速達料金を調べ正当な料金を徴収することがほぼ可能であったものの、差出人がポストに直接投函する場合においては、料金計算を差出人に委ねる以上、必ずしも正しい料金が納付されるとは限らなかったことになります。

 

このため郵便局は、料金不足に起因するトラブルを回避する目的(局員の誤りによる不足の場合は速達失効とせず事後的に差出人から不足分を徴収した)もあって、郵便窓口で差し出された速達郵便物と、ポストに投函されたものとを識別する必要が生じたのでした。


その具体策として、郵政当局は、郵便窓口での速達郵便物の引き受けに際し、「速達料金○銭徴収」という表示を事務用印または手書きにより郵便物上に行うこととしました(この施策の対象は当然、全ての速達郵便物ではなく、正しい料金が納付されていることが明らかな場合にはわざわざ表示する必要がなかったので、表示のある使用例の現存数は多くない)。これにより局側のミスによる料金不足から速達が失効して遅延リスクが利用者に及ぶ事態を回避する必要があったのです。


この表示方法は1年11か月の間、継続された後、1939(昭和14)年7月16日からは「窓口」という表示に変更されました。これは大東亜戦争の戦況悪化に伴う郵便サービス簡素化の煽りを受けて速達のポスト投函が禁じられる1940(昭和15)年11月15日までの1年4か月間に亘り続きました(以降は速達料不足であっても郵便局員の誤りに起因するものとして速達失効させない扱いとなる)。

というわけで、このコレクションは、速達郵便全国化に伴い、それ以降ごく短期間のみ実施された、「速達料金○銭徴収」および「窓口」表示に焦点をあて、その期間内に郵便窓口から差し出された速達郵便物を検証することにより、当該施策がどのようなものであったかについて、実際に逓送された郵便物を用いて実証的に提示することを目的としています。

したがって、この展示の対象期間は、速達郵便のポスト投函が許容されていた1937(昭和12)年8月16日から1940(昭和15)年11月14日あたりまでの概ね3年3か月間という短期間に設定されています。

 

第2リーフの速達書状は、郵便区市外30銭料金のもので、「速達料金○銭徴収」表示がなされた最も古い日付をもつ使用例として提示しています。