自分のパーソナルを形成した大切なパーツ…それが中西俊夫さんでした | KEN筆.txt

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中西俊夫オフィシャルfacebook

 

2月25日12時6分、私にとって生涯のベストヴォーカリストである中西俊夫さんが逝去されました。享年61は、2014年1月に他界されたPLASTICSのメンバー・佐久間正英さんと奇しくも同じでした。いずれも早すぎます。

 

中西さんは80年代テクノ全盛期において日本でもっともカッコいいミュージシャンであり、クリエイターであり、多感期の自分に多大なる影響を与えていただいた方です。私は手先が不器用で絵は描けず、物を造り出すのも苦手だったので、デザインセンスに長けている方が羨ましく映っていました。音楽と並行してアーティスティックなモノを生み出していくところが、自分にとってのテクノの魅力であり、あこがれだったのです。

 

▲PLASTICSのメンバー。前列左が中西さん

 

YELLOW MAGIC ORCHESTRAをリアルタイムで体感し、少しばかりあと追いとなってしまいましたがPLASTICSやP-MODELと出逢え、MELONもWATER MELON GROUPも聴き、大人になってもPOLYSICSを追いかけていられる自分は本当にベストであり、ジャストな時代に生まれたのだと事あるごとに噛み締めます。よほど前世でいいことをしたとしか思えません。

 

中西さんの魅力については、昨年5月にBLUE NOTEでおこなわれたPLASTICS40周年ライヴのリポートで思いっきり出力しました。それは長年心の中へ溜めていた思いを一気に、そして余すところなく吐き出したものでした。

 

40年目のORIGATO PLASTICO返し/プラスチックス in BLUE NOTE

 

だからこのような哀しみを迎えたとしても、思い出として語るべきものは持ち得ていません。ただただ、無念さだけがお腹のあたりで渦巻いているような感覚に今、おります。

 

この時のライヴリポートを中西さんご本人が目にしたらしく、ありがたくもfacebookにて紹介していただきました。なんと恐れ多く、そして嬉しかったことか。中坊時代にあこがれた方に拙文を読んでいただけたことを、あの頃の自分に報告したくなりました。

 

「ご紹介いただき光栄です。これからも現在形としてのご活躍を期待しております」とコメントで御礼を告げると「nice report」と返してくださいました。PLASTICS結成から何十年経とうとも、私の中で中西さんはずっと現在形のアーティストでした。

 

中西さんが食道がんを公表したのは、そんなBLUE NOTEライヴを終えてより創作意欲が湧いてきたと思われた矢先のことでした。11月より有志によって治療費をねん出するべく「中西俊夫を救え! チャリティシングル企画“GOD SAVE THE TOSH!”」のクラウドファンディングが始まり、わずか40時間にして目標額を達成。その後も多くのファンがサポートに名乗りをあげ200万円を超える支援金が集まりました。

 

▲昨年5月10日、BLUE NOTE TOKYOでおこなわれたPLASTICS結成40周年ライヴにおける中西さん(「中西俊夫を救え! チャリティシングル企画“GOD SAVE THE TOSH!”」より)

 

長きに渡り、いかに中西さんが愛され、そして多くの者たちに影響を与えてきたかが寄せられた応援メッセージに表れていました。公表された時は「ステージ3で転移はなし」とされており、回復してまたステージであのヴォーカルを聴かせてくれるものとばかり思っていました。今回の報を目にした瞬間、まず頭に浮かんだのは立花ハジメさんと並んでBLUE NOTEのステージに立っている…つまり、最新のライヴの残像でした。

 

私は一ファンであり、直接的なつながりがあったわけではなかったのでライヴ以外では共有した時や場所がありません。なのでこういう時になんらかのエピソードが出てくるはずもなく、確実に自分のパーソナルを形成した大切なものの一部を失ったことの大きさに何もできず、何も思いつかずガク然とするしかありませんでした。

 

こういう時に「ありがとうございました」などとありきたりな表現すると、そうした思いや中西さんの存在そのものが陳腐に伝わってしまいます。かといって、どんな言葉で表したらいいものか…うん、でもやはり自分の人生と感性をこんなにも豊かなものにしていただいたことについては、感謝しかないのです。困ったものですよね。

 

もっと私に中西さんのようなカッコよくて色気のあるセンスが植えつけられていたら、こういう時にもその功績と自分の思いを的確に伝えられるような言い回しができるのに。ノドに詰まった固形感のある思いに息苦しさを感じていると、POLYSICSのハヤシさんが追悼の意をツィッターにアップしていました。

 

POLYSICS公式ツィッター

 

あの日、同じようにBLUE NOTEへ胸をときめかせて足を運び、終わったあとはメールを通じてライヴについてわずかではありますが、語り合いました。私は一方的に影響を受けただけでしたが、ハヤシさんはそれを自身の能力へと変えて先人から音楽を受け継ぎ、現在の若者たちに伝えています。

 

言葉ではなく、音楽によって自分の思いや姿勢を表現できる。そんな彼を見続けることでも、私は中西さんの存在を忘れずにいられるのだと思います。もちろんこれまで残していただいた作品や著書、写真一枚にいたるまで、どれもが宝物です。

 

そして――2017年2月25日以後も、私にとってのベストヴォーカリストは永遠に中西俊夫さんです。

 

THIS IS PLASTICS!:PLASTICS『TOP SECRET MAN』

唸るヴォーカルと歌うギター:MELON『GATE OFJAPONESIA』