kenro-miniのブログ -12ページ目

kenro-miniのブログ

kenroが見た、行った、読んだもんをつらつら書き。美術展、映画、本、旅行など。

札幌地方裁判所の裁判官時代に、「裁判官の令状審査は捜査側の言いなり」旨、新聞に投稿し、その後仙台地方裁判所に赴任後、盗聴法反対集会で「所長から出席するなと言われたので、パネリストは辞退する」と会場から発言した寺西和史さんは、この発言で分限処分を喰らった。その寺西さんが、保釈について「権利保釈(除外事由がない限り被疑者・被告人を保釈するのが原則)が基本なのであるから、保釈は現行の運用より認められるべき。もし、保釈中に逃げたら保証金を没収すればいいだけのこと」などと発言していたのを思い出す。

前置きが長くなった。本作でSBS(揺さぶられっ子症候群)が疑われ逮捕・起訴された被告人をいくつも無罪に導いた秋田真志弁護士の「警察も検察官も裁判官もみんなね、騙されるのが嫌い」に大きく得心が入ったからだ。そう、裁判官は被疑者・被告人が嘘をついていたとしたら、それに騙されたくない。だから保釈を認めない。大川原加工機事件では相嶋静夫さんが保釈をなかなか認められず、病状が悪化し亡くなった。人一人の命までかかっていたのに保釈を認めない裁判官とは?

「揺さぶられる正義」は、「被虐待疑いのある乳幼児を救う」「正義」と「十人の真犯人を逃すとも、一人の無辜を罰するなかれ」という「正義」がぶつかり合うとともに、メディアの逮捕された被疑者の実名報道によって、関係者らの知る権利を守る「正義」と、刑事裁判確定までは無罪推定なのであるから、安易に実名報道(に加えて、起訴以降の報道は極端に少ない)には謙抑的であるべきとする「正義」のぶつかり合いでもある。その両者の矛盾と葛藤を知る最適の人物が、刑事裁判に関わることを目指してやっと弁護士になり、関西テレビに入社したのに、途中で記者職に変わった上田大輔さんである。上田さん自身、メディアの一員として、義理の娘への虐待を疑われ、一審で有罪、二審で逆転無罪判決、五年半も拘留されていた今西貴大さんから、逮捕時のカンテレの報道姿勢について問われると、明確に答えることができなかったのだ。しかし、今西さんが「上田さんを信じていた」と取材にずっと付き合った理由を話すシーンは事件報道の核心を突いているし、また、刑事裁判(弁護)の本質をも突いている。先述の秋田弁護士は「騙されるのは弁護士の役割」とも述べている。

検察側証人としてSBSの疑いを何度も証言してきた医師は、上田さんの取材に、手元の赤ちゃん人形を激しく揺さぶり、放り投げながら「これで何も起こらない方がおかしい」。彼にとっては乳幼児の異常は、揺さぶりありきなのだろう。「私は小児科医だから子どもをとる」とも。一方、弁護側証人を多く引き受けてきた医師は、今西さんの一審で検察側証人として「交通事故並みの外力が加わって(被害児の)脳幹が損傷」と証言し、一審では採用されたものの、二審では証人自体に採用されなかった。

無罪判決が続き、起訴も大幅に減ったSBSを理由とする障害(致死)事案は過去のものとなりつつあるが、今西さんの事件は検察が上告中である。いわば捜査・公訴側にとっての「トレンド」であった疑いが濃い。もちろん被虐待児は現実に存在するし、そのような加害者は罰せられるべきであろうが、実際に虐待行為をしたか、していないかを知るのは被疑者だけだ。そこには「信じる」ことから始まる弁護活動も、捜査側のストーリーを無批判になぞりがちなメディアの反省も必須条件だろう。

「正義」を疑う「勇気」も同時に、私たちに要請されているのだ。(「揺さぶられる正義」上田大輔監督 2025カンテレ)