Jiu 〉


 

「・・絵本」

 

「え?」

 

そうだ、オンニが泣いた理由・・

 

絵本を捨てられたからだった。

 

もう、10歳だったオンニが

絵本を捨てられて泣いたから

びっくりして・・

 

 

“約束したのに”

 

たしか・・そう言っていた。

 

 

「2度会わないでと言われた。

今度こそ・・約束を守る事を誓ったのに

・・美容院であなたの名前を聞いた時

やっぱり、運命なんだって思ったの」

 

 

“運命”は・・誰にとってなんだろう。

 

 

「ジウヤ・・」

 

いつのまにか、

ヘジンさんと同じように

テーブルの上で組んでいた手

 

その手が、そっと包まれた。

 

「戻ってきてほしいの

・・私のところに」

 

 

・・・・え?

 

 

 

「もし、あなたが戻ってきてくれるなら、

ヌイさん達の美容院も再建する。

もちろん、ユイさんにかかる費用も

全て私が出すわ。ジウを今まで

守ってくれたんだもの」


・・・戻るって


「それにね、意外だったんだけど、

ジアンも喜んでくれてるの。

あなたをオンニと呼べる事を。

あなたと“家族”になれるって」

 

すごく嬉しそうに話すヘジンさん。

 

 

 

・・・・・。

 

“家族”

 

 

きっと、ヘジンさんが言っている事は

全てホントの事なんだと思う。

 

それでも・・

 

「し、しょうこ・・は」

 

「え?」

 

「私とヘジンさんが・・親子だって」



「これを」

 

・・・・これ


写真の隣に出された紙。


DNA鑑定

 

「いつ・・」

 

「あなたと出会って、名前を聞いて

まさかとは思ったけど、調べて、

あなたが、私の子供だとわかった。でも

情報以上の証拠が欲しくて」

 

何を使ったんだろう

鑑定書の日付は、去年のモノだった。

 

「これは、あの時のワンピースについていた

あなたの血液でしたのよ」

 

あの時?

 

「Lが自殺未遂をした夜」

 

・・・・



ワンピースがなくなったとは

思っていた。

 

 

「ホテルに来てくれた夜、

エレベーターの前でジアンと並んだ

あなたの顔を見て・・

戻ってきてほしいって心から思ったの。

あなたの帰る場所は、私がつくるから。

って言っても、元の形に戻るだけなんだけど」

 

 

・・・・。

 

 

 

気づいた時には、

独りで道を歩いていた。

 

 

全部、解決できるような

魔法が使えるなら、

私は、なんでもするのにって

思ってた。

 

なんでも・・

 

私が“戻ったら”

オンニも、もっといい環境で過ごせて

オンマ達は、また、お店ができる。

 

ホンモノじゃないけど。


ホンモノだと思っていたから

何も話せなかった事に悩んだのに。

 

オンニがほんとの 

家族じゃなくても

受け入れるとか、言ってたくせに

 

次から次に

湧き上がる言葉の中で

 

 

1つだけ、

真ん中から動かなかった言葉。

 

 

オンニの場所を

奪ったのは私・・。

 

オンニが、

あの部屋から出られなくなったのは

 

私のせい・・・。

 

 


●●●●

 

 スタージウ(2021年)






☆☆☆☆☆☆☆