JIMIN >

 

 

「オンニは私と3つ違いで、あ、

クオズです。だから、27歳ですね。

美人で頭がよくて明るくて、

なんでもできました。いつも、

不思議に思ってました。

姉妹なのに、どうして

こんなに似てないんだろうって」

 

手は握ったけど、こっちを

見ないまま話し始めた。

 

「私は中学を卒業して美容院の寮で

暮らす為に家を出る事を決めました。

そしたら、オンニも家を出るって言って」

 

「ジウヤが中学生なら・・大学生か。

お姉さんも寮?」

 

「それが・・家族には内緒に

してたんですけど、オンニ、

その時、年上の彼氏さんがいて」

 

「もしかして・・・同棲?」

 

「はい。私にだけ教えてくれて・・

もう、初めて聞いた時は、

びっくりしすぎて・・。その後、

オッパに、あ、彼氏さんに

会わせてくれたんです。私が

“面接する”って言ったから」

 

「面接ね・・ジウヤ、話せたの?」

 

「初めましての挨拶をして、

話せない事に気づきました」

 

その時間が優しく流れてるのか

楽しそうに話す彼女に口元が緩んだ。

 

「じゃあ、面接できなかったの?」

 

「いえ、そんな事もあろうかと、

質問書いて準備してたんです」

 

「すっごい・・ドヤるね」

 

「はい。我ながら名案だったと思って。

でも、オッパ、あ、彼氏さんは、

すごく、優しい人で、隣のオンニの顔、

私は見た事ない顔ばかりで。

その時、オッパが、あ、彼氏さんが」

 

「いいよ、オッパで。ユイさんの

彼氏さんの事、なんて呼んでたの?」

 

「セギョンオッパって・・。

男の人、怖かったけど、

オンニの大好きな人だって思ったら、

自然と話せるようになりました。

わがままも言えました」

 

「わがまま?」

 

「初対面なのに“ケーキ、も1個

食べたい”って言えたんです」

 

「・・わがまま、ねぇ」

 

「オンニと結婚してほしいって

本気でお願いしました。オッパも

うんって言ってくれて・・

オンニの顔真っ赤になって」

 

・・・・。

 

「オンニとオッパの事がバレたのは

事故の日です。オッパ、近くまで

オンニを迎えに行ってたんです。

だから・・事故の事は、オッパが

連絡をくれました」

 

「そうだったんだ」

 

「はい。・・病院で、オンニと一緒に

住んでいる事を知ったアッパが

セギョンオッパを・・殴ったんです。

お前のせいだって。ほんとは・・

帰るのは、その日じゃなかったから。

でも、急に帰るって・・アッパは

オッパが呼びつけたんだって

思っちゃったらしくて・・。

ほんとの理由は、そんなんじゃないのに」

 

「ほんとの理由?」

 

一度、口を閉じた彼女は

短く息をついた。

 

 

「私、前日にオンニの電話

聞いちゃって。“明日、帰るから。

家で待っててね”・・・

“愛してるよ”って」

 

ほんとの理由は

言えないのかな・・。

 

「・・うん」

 

でも、最後の言葉が“愛してる”で

よかっ、

「その電話で、オッパの足に

鎖が巻かれました」

 

「え?」

 

「オンニが“待ってて”って

言ったから・・オッパは

動けなくなりました」

 

・・・・。

 

「でも、その時の私は、そんな事

考えてあげられなくて、オッパに

オンニが使っていたスマホ渡したんです。

きっと、オッパとの写真とか

いっぱい入ってるだろうし、

オンマ達には見られたくないだろうから。

って、そう理由をつけて・・

でも、今、思えば、ホントは、

“オンニに電話する”って、それが

やりたかったんだと思います。

今まで、当たり前にやってた事を

続けたかっただけ。きっと、オッパは

すごく、すごく辛かったはずなのに」

 

・・・・。

 

「オンニの状態が安定して、

・・少しずつ、骨折していた骨が

繋がって・・後は、目を覚ますのを

待つだけになって・・。毎週、オンニに

会いに行く日は“デート”だって言って。

セギョンオッパと一緒に行ったり」

 

「・・ジウヤ」

 

「はい」

 

「1度だけ、聞いた事があるんだ。

その、たぶん、ユイさんの声だと

思うんだけど。電話みたいな」

 

「あぁ・・・これですか?」

 

ふっと離れた手は、テーブルに置いていた

スマホを触った。

 

『もしもし、ジウヤ~』

 

聞こえた声は

あの時に聞いた声と同じだった。

 

「うん、これ・・」

 

『早く起きて』

 

『今日は早く帰って来れるの?』

 

笑顔で彼女が頷いた。

 

『急がなくていいから、ちゃんと

左右見てね』

 

『じゃあ、朝のかけ声』

 

ブツっと止まった声。

結ばれた彼女の口が、

少しだけ上がった。

 

「これ、実家に帰ってくる日の朝に

入ってた留守電です。この日の夜、

私も帰って、みんなでゴハン食べて、

笑って、楽しくて・・この後、

何が起こるかなんて、

何も知らなかった日のオンニの声です。

オンマ達も持ってます。

オンニの声が聞きたくなると、

これ、聞いてるんです。

あれから、ずっと、このデータが

失くならないように

バックアップはしてました。

あ、だから、ほら、アメリカで、

スマホ、プールに落としても

大丈夫って言ったでしょ」

 

「・・あぁ、それで」

 

スマホを、テーブルに戻したから、

また、彼女の手を取った

 

「ソルラルが来る度に

今年こそは、“帰って”きて

くれるんじゃないかって」

 

 

 

それまで降ろしていた両足を

ソファに上げて膝を抱えた。

 

 

 

 

「ある日、オッパが別の女性と

一緒にいるところを見ました」

 

・・・・。

 

「オッパも辛かったんです。

家族でもないのに、

・・待てる訳なんてないです。

それでも感謝してるんです。

オンニは、私達の前じゃ、

泣かなかった。泣いたのを見たのは

数えるほどです。でも、オッパは、

オンニの事を“泣き虫”だって

言ったんです。オンニが、

素直でいられる場所を創ってくれました。

だから、余計に納得できなくて

でも、オンニの声が聞こえたんです。

まぁ、夢の中でしたけど」

 

「ユイさん、なんて言ってたの?」

 

 

「“オッパを解放してあげて”って。

その時、気づいたんです。オッパの

足の鎖に・・すごく、寂しかったけど、

オンニのスマホも返してもらいました」

 

 

返ってこない言葉、

宙に浮かんだままの気持ち・・

 

きっと、誰も、その人を責める事は

 

「オッパと最後に会った日に

言われました。オンニが

家を出た本当の理由・・」

 

 

こんなに寂しそに笑う顔

初めて見た。

 

 

 

 

 

 

「私とオンニは・・血が

繋がっていなかったんです」

 

・・・・。

 

 スタージウ(2014年)




 

 

 スタージウ(2019年)



スタージウ(2019年)