2020年

 

1月25日(土)【20:03】

 

Jiu〉

 

 

・・・・。

 

「入るわよ~」

 

聞こえた時には

部屋のドアは開いていた。

 

「あんた、明日、何時に出るの?」

 

「ん~、16時ぐらい」

 

ベッドに寝転がる

私の足元に腰掛けたオンマ。

 

「夜は、その人の家に泊まるの?」

 

「うん」

 

「せっかくなら、もう1泊してから

行けばいいのに」

 

今年のソルラルは月曜日までが

祝日だったから振替もいれて

お店が始まるのは

水曜日からになっていた。

 

「まだ、まだ下っ端ですから。

お店は水曜日からでも準備とかで

火曜日は出ないといけないし」

 

それに、明日の夜は、

グループの仲間と

集まる事になっていて

私は、そのまま、

イェナオンニの部屋に

“お泊り”をする。

 

初めての“お泊り”

 

・・楽しみすぎる。

 

考えただけでも口元が緩む。

 

「よかった」

 

声と一緒に、ふわっと

頭に当てられた手が

髪を優しくすべる。

 

「何が?」

 

「ん?ジウヤがすごく

楽しそうでよかったと思って」

 

「・・ん。楽しい。今までで

1番楽しいよ」

 

「そう、それは、なにより

なんだけど、オンマもアッパも

淋しいから、今夜は、もう少し

一緒にいて。・・ゲーム

したいでしょうけど」

 

まったく、

 

「オンマ、私は、今年22歳だよ。

せっかく家族といるのにゲームを

優先するとか、そんな事しないから」

 

「あらぁ、そう、あのジウから、

こんな言葉が聞ける日が

くるなんて。どーりで、

年とったはずだわ。

じゃあ、お茶いれるから」

 

「うん」

 

優しく笑って

立ち上がったオンマ。

 

・・・・。

 

「オンマ」

 

「何?」

 

ドアの前で振りかえった

オンマに言葉を続けた。

 

「オンニのアルバムって

他にないの?」

 

さっきまで見ていたアルバム。

 

その1ページ目の写真には

赤ちゃんの私と、その隣に

3歳のオンニが写っていた。

 

「どうしたの?急に」

 

オンマの顔は変わらない。

 

「ん?ううん、久しぶりに

アルバム見てて。私とオンニが

写ってるのはあるのに。

オンニだけのがないなと思って」

 

眉間に皺を寄せたオンマ。

 

「昔、言ったでしょ。忘れたの?

火事で燃えたって。ユイが2歳の時に」

 

「あぁ・・そっか、そうだったね」

 

オンニの3歳までの写真がない事に

何の疑問も思わなかったのは

そう聞いていたから。

 

オンニは、

いつから疑ったんだろう。

 

どれだけ思い返しても

私に向けられた笑顔に嘘はなかった。

 

いつから・・

 

仲直りした日も

結局、それは、聞けないままだった。

 

 

「ユイの写真、たくさん

撮ってたのに・・そんな事言うから、

ユイの声が聞きたくなっちゃった。

電話してこよう。ジウヤ、

お湯沸かしてて」

 

「ん、わかった」

 

今年も帰ってこれなかったオンニ。

 

アルバムを見ながら、

あの日、聞いたオッパの言葉が

グルグルと回った。

 

“いつとは、聞いてないけど、

僕と出会った時には、もう、

わかっていたよ。ユイ自身、

すごく悩んだし、怖かったと

言っていたけど、不安の中で

いるよりはいいと思ったって。

DNA検査をして、ジウヤと

自分の血が繋がってない事が

はっきりして、今までの事が

納得できたと言っていた”

 

DNA・・。

 

“写真がないんだろう?

ユイの3歳までの”

 

火事で燃えたから

 

“ジウヤが家に来た時の事は

なんとなく覚えてると言っていた。

お母さんが抱いていたジウヤを

今日からユイの妹だと言ったと

・・・だから、ユイは、

自分が養子なんだと”

 

美人で明るくて、頭もいいオンニ。

なんで、こんなに

似てないんだろうって

いつも不思議で、オンニにも言っていた。

今、思えば、それを言う度に

少し、淋しそうに

笑っていたような気がする。

 

 

“でも、ご両親との事までは

できなかった。それまで見てしまうと

もう、そこにいる事ができないと

思ったから。だからこそ、

ジウヤの存在が支えだった。

血が繋がっていないジウヤが

自分の事を必要としてくれる、

その事が居場所を作ってくれていたと

・・だから、ジウヤがいなくなる

家にいる事ができなかったんだ。

それもあって、僕と一緒に

住む事にしたんだけど・・”

 

だったら、

私が帰って来る時ぐらい、

帰ってきたらいいのに・・。

 

胸元で揺れる石に触れる。

 

 

もう、6年も経ってるのに、

オンニの言葉を覚えているのは、

これをくれた夜が

特別な夜だったから。

 

“ジウヤが私の居場所を

作ってくれる。私の事を

褒めてくれる度に、

ここにいていいって

思わせてくれる・・

ジウヤは私の大切な

生きる理由だよ”

 

・・・・。

 

 

 

「ジウヤ~、何してるの~」

 

 

「はーい、今、行く~」

 

リビングから聞こえた

オンマの声に返事をして

ドアに向かう。

 

開ける前に

横に置いている鏡に

向かって笑顔を作った。

 

よし、

 

大丈夫。

 

 

・・・・。

 

そういえば・・

 

オッパが最後に言った言葉。

 

“ユイが1度だけ話してくれたんだ。

毎年、1年に1回、会っていた

女性がいたって。でも、

その事は、誰にも言ってないと

言っていたよ。僕とだけの

秘密だったけど・・もう、

一緒にいる事はできないから。

今も会っているかは

わからないけど、もしかしたら、

その女性が、ユイの本当の

母親なのかもしれない”

 

オンニの本当の家族・・。

 

血が繋がった・・ホントの。

 

 

 

 

 

 

 

オンニは・・

 

 

 

私の家族だもん。

 

 

オンニの事、スホの事、

頭の中がグルグルして

 

 

少し、忘れたくなった。

 

後で、ゲームしよう。

 

息をついてドアを開けた。

 

スター

https://ameblo.jp/kennag/entry-12809861116.html 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆