【20:45】

 

Jiu 〉

 

 

「あ~、楽しかったぁ、ね、ジウヤ」

 

バス停から家まで続く道を

ハイテンションのオンニと帰る。

 

 

「うんっっ」

 

初めての場所。

初めて見た景色。

初めて・・あんなステージ。

心臓がドクドクして、

すごく、すごく楽しかった。

 

「最後さぁ、絶対、私と目が合ったよ」

 

観覧が終わった後、“出待ち”もした。

ビーさん達には会えなかったけど。

 

「オンニ、それ、何回目?」

 

「何回でも言うよ。だって推しと

目が合ったんだから」

 

オンニの笑顔が大好き。

 

私より3つ上のオンニは、

美人で頭がよくて優しくて

学校でも人気者。

 

妹の私とは正反対。

 

でも、オンニは、誰の約束より

私との約束を優先してくれた。

 

上手く話せない私の気持ちを

いつも、わかってくれる。

 

足元を見る事が多い私の視線を

 

「ジウヤ」

 

名前を呼んで上げてくれる。

 

私の自慢の姉。

 

今日の“夜遊び”は、

受験ノイローゼに

ならない為の息抜きと

私の4ヶ月も早い

誕生日プレゼントの“前借り”

で、オンマとアッパに許可をもらった。

 

それだけの理由で許可が下りたのは、

オンニがすごいから。

 

「ジウヤ・・」

 

「ん~?」

 

「ホントに行くの?」

 

さっきまでとは、声のトーンが

明らかに落ちた。

 

「・・うん」

 

道の途中なのに、

オンニは、私をギュッと抱きしめた。

 

「私、傍にいないのに」

 

・・・・。

 

「大丈夫だよ・・。それに、今日、

見て自分の気持ちがわかった。私、

やっぱり、メイクの道にすすみたい」

 

うちはオンマとアッパで

美容院をしている。

オンマはメイクアップアーティスト。

アッパは美容師。

予約して来たお客さんは、

少し疲れてるようにも見えるのに、

オンマとアッパの手にかかると

その表情は、どんどんキラキラしてくる。

それを見るのが好きで、学校から

帰ってきたら、いつも店に出ていた。

 

いつからか、私も誰かをキレイにする

仕事に就きたいと

思うようになって・・

 

まだ、はっきり

決めてはいなかったけど

オンニにだけは話していた。

 

「別に高校行きながら、オンマ達に

教えてもらえばいいじゃない」

 

中学校を卒業したら、

家を出たいって。

 

それが、夢への近道で・・

 

それが、全部じゃ・・ないけど

 

でも、

今日のステージ、みんなすごく

キラキラしてて、カッコよくて

可愛くて、あの時は怖かったけど

ビーさんとジミンさんの

あの目元も歌の雰囲気に、

すごく合っていた。

 

気持ちが固まった。

 

「失敗した」

 

「何を?」

 

「今日がダメ押しになったか」

 

すごく大きく息をついたから

思わず笑ってしまった。

 

「・・ジウヤ、こんなに

可愛いのに・・頑固だもんね」

 

可愛くは・・

いや、頑固でも・・

 

身体を離して、私を

まっすぐ見たオンニの顔は、

小さな女の子みたいに、

拗ねた表情。

 

「オンマ達には?」

 

「月曜日に・・お店が

休みの日に話そうと思う」

 

「オンマ達が反対したら、

やめる?」

 

・・・・。

 

「あきらめない」

 

「・・・も~、」

 

も~って・・

 

「・・しょうがない」

 

 

腕を緩めたオンニは、バックから

小さな紙袋を取り出した。

 

「何?」

 

「ん~?私の代わり」

 

「代わり?」

 

「そ、私の代わりに

ジウヤを守れるように」

 

話ながら、首元に

回された手が離れた。

 

「これ・・」

 

 

 

細いシルバーチェーンに

4つの・・石?

 

「その青いのがアイオライトっ

ていうパワーストーンなの」

 

パワーストーン?

 

指で挟んだ石は青にも

紫にも見えた。

少しなぞると

その表面を光が撫でる。

 

「・・キレイ」

 

「それ、ちゃんと

意味があるのよ」

 

意味・・

 

「“夢や目標への羅針盤、

人生を導く石”ジウヤの夢が

叶うまで、その石がジウヤを

守ってくれる。あっ、もちろん、

私もいるけど・・、家出られたら、

傍にはいられないし」

 





「・・嬉しい」

 


反対してたのに、

それでも・・

そう願ってくれた。

 

私の為に時間を使ってくれた。

 

「ホント!?」

 

「うんっっ、すごく嬉しい」

 

「よかった」

 

すごく、嬉しそうに笑ったオンニに

嘘は感じない。いつも、全力で

私を守って、愛してくれる。

 

 

 

「実は、私の分も一緒に

買ったんだ~」

 

そう言いながら、自分の首元に

手を動かした。

 

「おっ、緑だ」

 

水が入った丸い器の中に

緑の絵の具が落とされたみたい

所々、濃ゆく色が溜まっていたり、

薄く広がっていたり。

 

首元で揺れる

色違いのネックレス。

 

また、並んで歩き始めた。

 

「オンニ、緑色、選んだのって、」

 

「もちろん、テギョンの色だから。

でも、これも、ちゃんと

意味があるんだって」

 

「どんな?」

 

「“精神を安定させて平穏を授ける”」

 

「わぁぁ、じゃあ、受験に

バッチリだね」

 

「ね」

 

「でも、オンニなら、石が

なくても大丈夫だよ」

 

「・・・そんな事ないよ。

私だって、自信ない」

 

・・・・。

 

初めて、見た。

 

こんなに、寂しそうに

笑うオンニ

 

「でも、私は、ジウヤの

自慢のオンニでいたいから頑張る」

 

隣を歩くオンニの表情が戻った。

 

「私?」

 

「ん~」

 

 

私の肩に腕を伸ばして

コツンと頭を寄せる。

 

「ジウヤが私の居場所を

創ってくれる。私の事を

褒めてくれる度に、ここに

いていいって思わせてくれる・・

ジウヤは私の大切な生きる理由だよ」

 

・・・。

 

どうしたんだろ・・。

 

やっぱり、今日のオンニ、変。

 

今まで、こんな事、

言った事なかったのに

 

「・・なのに、家、出るし」

 

・・まだ、言ってる。

 

「だって、やりたい事があるなら、

迷わずやれって言ってたの

オンニじゃん」

 

「んーーーー、そうだけど」

 

他に理由・・

 

 

「だって、・・規制*外れちゃうし」

 

「規制って・・ゲーム?」

 

「うん、私、このままだったら

高校進学したとしても・・

学校行かないと思う」

 

「変な事、断言しないでよ。でも、

確かに、ジウヤは、そうなる可能性も

なくもない・・じゃあ、やっぱり

美容師の仕事した方がいいのかな

・・う~ん」

 

 

・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*(以前もどこかで書きましたが・・)

「シャットダウン制」

韓国ではインターネット依存・中毒

増加を受け

(それによる死亡事故の事例報告もあり)

2011年からオンラインゲーム

提供者が16歳未満の青少年に

午前0時~6時のオンラインゲームの

提供を違法とし深夜帯の

インターネットゲームの提供を

制限する法案。2021年に廃案となっている。