全日本学生剣道優勝大会を前に①

高輪の記事を一時中断して、
本日は、いよいよ3日後に迫った全日本学生剣道優勝大会について、
関東大会や各地方大会の結果なども踏まえて
思うところを自由に書いていきたいと思う。

黄金世代と呼ばれた現4年生。
この学年を少年時代から注目してきた私にとっても、
学生最後となる今大会は感慨深いものがある。

さて、
まずは今大会の優勝候補を私の独断と偏見で
5チームに絞ってみる。

筑波大
中央大
鹿屋体育大
国士舘大
明治大

である。

そして、それを追うのが

大阪体育大
日本体育大
法政大

また個人的に注目しているのが

早稲田大
慶應大
専修大
立教大
大東文化大
別府大
中部大

である。
理由はもし余裕があれば後ほど書くことにする。


さて、トーナメント表を見てみよう。
また、よりによって左側に強豪校が偏ったものだ。
特に左下ブロックはさながら地獄図だ。

上記に挙げた優勝候補5チームのうち
3チームが左下ブロックにひしめく。
すならち、国士舘、中大、鹿体大である。
加えて、関東で3位と活躍した立教大と
先日早慶戦で久々に早稲田を下して意気上がる慶応大も
このブロックにいる。

中大と鹿屋が順調にいくと3回戦で激突する。
この対決の勝者が左下ブロックを勝ち抜く可能性は高いと思うが、
しかし、もちろん国士舘も強い、
それから大体大も昨年のようなこともあるし
実際どこが勝ち上がるかわからない。


さて、各チームの状況を詳しく見て行く前に、
この黄金世代である4年生の中から最注目の11名を抜粋、
さらに3年生のトップリーダー3名を加えた計14名について、
大学に入ってからの対決をまとめてみたのが以下の表である。

イメージ 1

個人別に右に見て行き、○が勝り、●が負け、△が引き分け。
例えば、梅ヶ谷は筒井に1勝、宮本に1勝1分、貝塚に2敗・・・と見て行く。

こうしてみると、梅ヶ谷の試合数が圧倒的に多く、勝率もトップレベルである。
ただしその他の大多数の選手は、勝ったり負けたりしていることが分かる。

また、同じ相手に全勝し得意としている、
逆に全敗しているなど、苦手としている相手も明らかだ。
例えば
宮本は筒井に強いが真田が苦手。
真田は宮本に強いが梅ヶ谷が苦手。
梅ヶ谷は真田や久田松や田中に強いが貝塚が苦手。
また、佐々木のように7試合で1勝しかしていないが、
逆に負け数を見ると1敗と最も少ないのもわかる。

このような表は自分ではいつも作っているのだが、
ここに公開するかどうかは悩んだ。
星取表だけが独り歩きすることを危惧したからだ。
あくまでこの星取表は傾向は示しているが、
絶対ではないし、学生剣道は半年で動向も変わる。

ここ一年を見てもだいぶ変わってきているので、
あくまで参考程度とすべきである。

いずれにしても、
今度の大会で、この表中の選手の対決は必ずあるだろうから
楽しみであることには違いない。


ここから優勝候補の紹介をしていく。

【筑波大学】

関東大会では3年ぶりの優勝を果たす。
前回は竹ノ内、林田という2人のトップスターを擁し、
優勝すべくしての優勝だったが、
今年の筑波は粘った末に掴み取ったものだった。


筒井雄大(4年)

こういうのを爆メンというのだろう。
真っ直ぐ正面を見据え、
正中線に沿って、
目にも止まらぬジェット噴射を放つ。
相手にとってはメンに来るとわかっていながら、
気付いた時には打ち抜かれているという、
先輩である学生時代の竹ノ内の爆メンを髣髴とさせる、
とんでもない飛び道具を持つ。

この飛び道具が、
緒戦の成城大学戦から炸裂した。

審判の「はじめ!」の掛け声と同時に、
一歩踏み込んだ筒井。
竹刀が交差したところで、
ロケット発射。
「バコーン!」

審判の
「2本目」の掛け声ど同時に、
また踏み込む筒井。
そして再度爆裂!
「ズコーン!」

武道館中に響き渡る
高音の掛け声もあいまって
その迫力に注目が集まる。

あっという間の出来事に、
間近で見ていた私は開いた口がふさがらず、
会場は騒然となった。

筒井のメンは
さらに磨きがかかってきたなあ。
なんという鋭さなのだ。

「筒井と初めて剣を合せる選手は、一度はあれを経験するんですよ」

筒井をよく知る人物が言う。


決勝戦。
明治に対して1-1のタイで迎えた大将戦。
相手はあの山田凌平だ。
しかも今日の山田はとんでもなく強い。
準々決勝では、
山田がどうしても勝てなかった梅ヶ谷に対して、
大将戦、代表戦と連勝。

いつもと切れ味の鋭さが違う。
特にコテは天下一品。打突のスピードは学生最速だろう。
山田にコテを狙われたら逃げるのは困難だ。
また、今日は
何が何でも勝つ!と言う闘争意識が違う。

私は、決勝戦が始まる前に
筑波が優勝する条件として、
副将の佐々木までに1本でもリードしておくことと思っていた。
だから、1(3)-1(3)のタイで大将戦を迎えた時には、
明治に若干の分があるのではないかとも思った。

しかし、筒井にはあの爆メンがあるから分からないぞ。

大将戦は互いに慎重だ。
引き分けで、
代表戦に。

明治は山田の続行だが、
筑波はどうだ。
意表をついて星子ということもあるのか。
いやない。
鍋山監督は迷わず筒井を指名した。

代表戦も
なかなか決まらず、
7~8分が経過した頃だった。
山田がコテのフェイントで、
筒井の間に入った瞬間だった。

おそらく筒井は反射的に、
あるいは体が勝手に動いたのではないだろうか。

それはあたかも
相手を襲う気がなかったライオンが、
自分の間にずかずかと入ってきた相手を威嚇するために
手を伸ばしたら、倒してしまっていたという感じである。

「ボコン!」

筒井の竹刀は、
明らかに山田のメンを捉えていた。

白旗3本があがった。
筑波優勝!!

筒井がいたからこそ掴んだ優勝。
この時の筒井なら誰が相手でも勝てる気がする。




佐々木陽一朗(4年)

準々決勝からは大将を筒井に託し
副将としていい仕事をしたと思う。

準々決勝の早稲田戦では、
前半で2人リードしていたが、
勇・久田松という後ろ2枚には2本リードでは全く安心できない。
佐々木の相手は勇大地だ。
それこそ少年時代からのライバル。

いつもどっしりとしている勇だが、
序盤から激しく攻める。
間合いを詰める。
下がる佐々木を、
つつつつーっと追って飛び込んだ!
勇の見事な飛び込みメンが決まった。
筑波、嫌な予感だ。

しかし佐々木は冷静。
間合いを詰めてのツキ。
フェイントからのコテ。
相手の虚をついた引きメン。
惜しい技を次々と放つ。

勇がメンを打とうとした瞬間、
体をパッとかわして!
「ドゥー!!」
抜けた!
白旗3本。
これが佐々木の得意技である。
おそらくどんなに速いメンでも、
たとえ筒井の爆メンであっても
佐々木が張っている網にかかったら、
ほぼ確実にドウを抜かれるだろう。

そのドウが、次の国士舘戦でも炸裂した。

国士舘が1-2とビハインドで迎えた副将戦。
矢野が激しく佐々木を攻める。
そして、メンに飛んできたところを
佐々木が待ってましたとばかり、
矢野の竹刀をいったん受けて、
「パコーン!」
ドウを抜いた!
ドウを抜かれた瞬間、
おそらく無意識というか、反射的に矢野の左足が出る。
普通の選手だと、この足に引っかかって
転倒するか、いずれにせよドウを抜ききれない。
しかし、佐々木は斜め右に抜くというよりも
左足の障害物を避けて右直角に抜いていくイメージだ。
見事に決まった。
佐々木のこの一振りで、筑波が決勝進出を決めた。


西山晃平(4年)と、甕健介(3年)。

筑波は決勝戦で4年生の西山晃平を先鋒に起用した。
そして次鋒に3年の甕健介。

それまでは4年生の山下拓真と
2年生の松井真之介も起用。
山下も2戦2勝と好調だったが、
決勝戦は西山と甕で戦った。

西山は神奈川県西部の二宮町出身。
少年時代から稽古の虫だったという。
その頃の腕前は県大会BEST8と言ったところ。
とにかく真面目に努力し続け、
鎌倉学園高校で大将を務める。

団体戦では桐蔭学園の壁に阻まれるも、
個人戦では県2位でIHに出場。
1回戦で準優勝した加藤峻一郎(秋田商)に敗れる。
関東大会でも個人戦は1回戦負け。
団体戦でも予選敗退。
とても筑波大に推薦で入る実績を残すには至らず。
一念発起し、浪人して筑波大へ。

入学後、自分よりも強い先輩や同級生ばかりの環境で
努力を続け、1年の新人戦の先鋒に起用される。
新人戦で2勝を挙げたが、それっきり姿を見ることがなかった。

このタイミングで復活してくるとは全く想像していなかったが、
鋭い返しメンなどが目を引いた。
こんなにいい選手が埋もれているとは、
少数精鋭の筑波も選手層はそうとう厚いなと思う。

そして甕(もたい)が抜群の活躍をした。
甕は東海大浦安で大将を務めた現3年生。

高校時代は2年生時に選抜に出場。
大将としてBEST8、優秀選手に選ばれた。
また東海大学附属系の大会でチャンピオンになっている。
長身でガッチリした身体から、
重く鋭いメンを放つ。
今回次鋒として、
準々決勝では早稲田の藤田にメンの1本勝ち、
さらに準決勝の国士舘・山本に対するメンの2本勝ちは大きかった。

この2人が全日本学生でも起用されるかどうかは不明だが、
控えにも素晴らしい選手がいるということがよく分かった。


星子啓太(1年)。

今、最も将来を期待される学生剣士ではないだろうか。
デビュー戦となった関東選手権でいきなり3位。
そして全日本学生選手権では、
九学の大先輩である真田を破るなど
勝負強さを見せつけ3位。
九学時代から、
この選手は大学に入ってすぐに
大学選手権を獲るかもしれないと思ったが
あながち大げさな妄想ではなかったということだ。

この関東大会では、
ややおとなしめの印象だったと皆言うが、
それはあまりに期待の方が大きいからであり、
実際には大活躍だった。

確かに6戦して2勝4引き分けだから、
全試合ケタ違いの強さを期待したファンには
物足りなかったのかもしれないが、
チームが勝つためには十分である。

特に、準決勝の国士舘戦における
星子の2本勝ちが大きかった。

決勝では、
星子vs梶谷というシビれるカードが実現したが、
やはり互いに手の内を知っている同士、
案の定引き分けとなった。
筑波としては、
星子を梶谷でない選手とぶつける
という作戦もあったのではないかと思ったりもした。

星子を見て思うのは、
安定していることだ。
団体戦ではその状況に応じた仕事を
きっちりやってくれる。
ガンガン獲りに行くだけが能ではない。
負けない強さというものを感じた。


初田彪(3年)

初田は今大会6戦中5引き分けと
決定力に欠けた感があるが、
やはり安定感は抜群だと思う。

今年の関東選手権では、
優勝した宮本に対して気迫で圧倒。
筑波で最も熱い男だ。

初田の公式戦の記録を見ると、
負けがほとんどない。
私が確認できる範囲で、28戦してわずか3敗。
引き分けを除いた勝率は、実に8割5分におよぶ。
これは筑波にとって大きな戦力だ。


田内雄大(3年)、

出身は山形。
山形四中時代には東北屈指の強豪選手として鳴らした。
そして中学を卒業すると遥か西、
東福岡に進学。
専大に行った了戒、平野らと同期。
一年先輩の勇大地らとともに活躍した。
そして高校を卒業すると
今度は東へ半分戻って筑波大へ。

大学1年時からレギュラーを務め、
2年前の関東優勝も経験している。
今回が2度目の優勝だ。

来年の筑波を支える選手として期待も大きい。

今大会決勝戦で唯一の勝利を上げたのは田内だった。



ああ、ここで時間が来てしまった。
続きはまた今度。
明後日かな。

(次回につづく)
【文中敬称略】