「日本の税は不公平」野口悠紀雄著 | けんじいのイージー趣味三昧

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 けんじいが好きな経済学者の著書である。冒頭自民党の裏金問題について言う。「国民は何に怒っているのか?政治資金収支報告書不記載もあるが、それではない。多くの政治家が巨額の資金を受け取りながら、それを税務申告せず、税を払っていないことである。

 

 かりに私がセミナー会社の社員であったとする。私が努力した結果、セミナーの受講者が増え会社の収入が増え、会社は給与やボーナスと別に私に特別の手当を現金でこっそりと出してくれた。では、この手当は課税の対象か。明らかに課税対象だ。これを税務申告しなかったら脱税になるはず。自民党からの裏金は実質的にこれと同じものだ」

 

 

 こんな文章から始まって、「税は公平でなければならない」との観点から書かれている。


(1)政治家の資金パーティー収入の不課税、キックバックの不課税など、政治家の活動だけが非課税扱いになっていることが、まず第一に大きな不公平だ。国会議員は歳費以外は基本的に非課税である。「調査研究広報滞在費」、「立法事務費」、JRの乗車券、定期航空券、3人分の公設秘書給与等々。著者のように自由業だと領収書を集めるのに一生懸命なのだが、その苦労を知らない人が税制を作っている。著者は、イギリスもフランスもアメリカ(独立戦争)も革命は税の不満から引き起こされたが日本は例外だと皮肉る。


(2)不公平の2つ目は、金融税制が分離課税になっていることである。所得税は総合課税が原則であるにもかかわらず、金融資産について20%の分離課税を適用している。ついでに言うと「貯蓄から投資へ」は誤ったメッセージだ。貯蓄も銀行を経由して貸出の形で投資されているのに、貯蓄がまるで銀行で眠っているお金のような表現である。今必要なのは「貯蓄から投資へ」ではなく、「貯蓄から消費へ」なのに完全に間違っている。本質を突くおもしろい表現だ。


(3)日本の税制はフリーランサーに抑圧的である。会社勤めは普通税務申告作業が必要ない。しかし、フリーランサーは多くの場合、雑所得や事業所得となるので、控除を受けるための申告負担が大きい。これを解消するにはサラリーマンの「給与所得控除」に相当する「フリーランサー控除」の新設が考えられる。

 


(4)ふるさと納税は地方自治を破壊する。特定の地方自治団体を助けたいのなら普通に寄付をすればよい。しかし、ふるさと納税は利用すれば得をする制度。人間の欲望だけを利用して、税の公平の原則を踏みにじる、日本人の精神構造を破壊するものだ。ついでに言えば、今日本の政治は、少子化対策に健康保険料を追加徴収するなど、おかしな政策が罷り通る末期的症状にある。


 ほとんどがけんじいがこれまでにブログで書いたことと一致するが、けんじいがよく理解できないままだったのが、公平の原則からインボイス制度を肯定的に書いている点である。消費税の本質は欧州の付加価値税と同じだが、2023年10月以前の日本はインボイスなしの不完全な制度だったと言う。世の中で言われている零細業者への悪影響は認めつつも、税制に対して減税しか主張しない野党にも苦言を呈している。

 

 マイナンバーについては、公平性の観点から必要だが、マイナンバーカード問題とは別だ。マイナンバーが欧州で普及しているのは政府への信頼が厚いからである。けんじいも本当にそう思う。任意のはずのカードを普及させることが自己目的化して、全く理解不能な補助金をあっちこっちにつけている政府のあまりの愚劣さにほとんど絶望感を抱くのは著者もけんじいも同じである。

 


 このほか年金保険、医療保険、介護保険、いずれの将来についても政府の説明は非現実的、超楽観的であり、その先行きは非常に暗いことを詳しく書いているが、省略する。


 いずれにしてもこの人の文章はいつもとても読みやすく、わかりやすく、官僚の書いた文章とは大違いだ。彼はいわゆるリベラルの人でもなく、新自由主義の人でもないことに、けんじいは学問的に信頼を置いて読んでいる。