今週の水曜日、ハーモニカサークルの練習が始まる3分前にけんじいは挨拶を始めた。平静に話しているつもりだったが、自分が重大な決意を話していることを示すように時々足が震えた。

 

 「今日私がここへ来たのは練習のためではなく、この会を辞める挨拶のためです。その理由は私がここにいない方がこの会の和のためによいと考えたからです。トップはこのところ、誰のせいとは言わないまでも、会の運営が楽しくないと盛んに言っておられました。そして2月の総会の席上、私の会計監査ぶりについて強烈な批判をみんなの前でされました。しかし私はルール通りにきちんと監査をした自負があります。

 

 

 またこの4月からは長年お世話になったお返しとして、これまで〇〇さんがやっていた仕事を引き受けることになっていました。学校の仕事を減らして態勢を整えていましたが、先の総会の発表ではそれもなくなりました。これで私にはもう未練がなくなりました。いやあるとすれば、時におだてて下さった先生とお別れすることです。独自の演奏会がある場合には、ボレロを演奏したいと思い、先生にもその伴奏の譜面をいただいていましたがそれもなくなりましたのでお返しします。ありがとうございました。この会の発展祈ります。さようなら。」

 


 「辞めないで」と言う声もちらほら聞こえる中で「ちょっと待ちなさい。」と言う先生のはっきりとした声が聞こえた。先生の声を無視するわけにはいかない。先生は、「まず楽譜をこんな場で受け取りたくない。この会の人間関係のことは私はわからないが、演奏についてだけ言えば、けんじいさんはとても重要な人だ。私としてはやってもらわないと困る」といった趣旨のことだった。2年前に現役メンバーが突然亡くなった時も一言もそれに触れなかった先生がここまで言ってくれるのは本当に申し訳なかったが、ここで翻意するわけにはいかない。けんじいが部屋を出た後から先生の「一体何が起きたんだ」と言う声が聞こえた。


 かくて正確に言うと2012年12月以来11年半にわたるこのサークルでのけんじいのハーモニカ活動は終わりを告げた。病気のことはもちろん言わなかったが、マンネリも感じていたし、ある意味一区切りをつけるにはよいタイミングだったと思っている。反省材料と言いながらほとんど反省のない内容になってしまったが。

 


 話は変わるが、日本語学校の先月の給与明細が来た。見ると交通費が1500円ほど過剰に支給されている。すぐに訂正を求める電話をしようとしたが、ふと思いとどまった。これを知らせることによってこの事務ミスをした人が咎められる。給与明細の内訳など見なかったことにすればよいのかも。これは今回のハーモニカ騒動で得た良い教訓なのかそれとも悪い教訓なのか。(このシリーズ終わり)