口蹄疫で牛は死ぬのか | 臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言

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 現在、日本に限らず、世界中の多くの国々では、口蹄疫に感染した家畜(牛、豚、羊など)が見つかると、感染の有無にかかわらず、それらと同じ施設にいた家畜もろとも、情け容赦なく徹底的に殺戮するのが普通である。
 つまり、ある家畜が口蹄疫に感染したことが判明した時点で、その患畜(感染した家畜)だけでなく、同じ牛舎等にいた健康な家畜も含めて、すべての家畜が速やかに殺されてしまうので、家畜が口蹄疫によって、死ぬことはない。口蹄疫で死ぬ前に、あるいは口蹄疫が発病する前に、人によって殺されるのである。

 また、口蹄疫に感染した家畜が、その後、どうなるのか、きちんと調べられることも滅多にない。実験的に感染させて、臨床経過を見るということは行われるが、自然の状態で感染した家畜の何%が発病して、どの程度の確率で自然に治癒するのか、また、自然治癒後にどのような後遺症がどの程度の割合で生じるのか、そういったことに関するデータは、ほとんどない。
 口蹄疫に感染した幼獣は、ほとんど死ぬと言う人もいるが、本当のところは分からない。一度、口蹄疫に感染すれば、肉質が落ちるとか、たとえ治癒しても、乳の出が悪くなると言う人もいるが、そもそも口蹄疫に感染して治癒した牛など存在しないのである。治癒する前に、感染した牛は人によって殺されるのであるし、感染した牛の肉を食べることもないので、その肉が美味なのかどうか、知る由もない。

 ところで、口蹄疫は人には感染しないと、盛んに報道されているが、これは必ずしも正確ではない。家畜の病気のほとんどは、人にも感染する。人が感染する頻度や症状は様々であるが、感染しないということは、まずあり得ない。
 口蹄疫(foot-and-mouth disease)についても、人への感染例が知られている。それによると、人の口蹄疫とも言える「手足口病(hand, foot and mouth disease:HFMD)」(口蹄疫とは、全く別のウイルスによる人の病気)と同じような症状が見られるとのことで、臨床症状だけでは、区別することができないと言う。

 手足口病は、主に子どもの病気であるが、大人が感染しないということはなく、ただ感染しても、症状がはっきりしないので、手足口病と診断されないだけのことである。
 手足口病は、日本限らず、中国などアジア各国で、毎年春から夏にかけて、広く流行している。今年も、中国での流行が伝えられているし、日本各地でも流行している。


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「口蹄疫は人に感染するか」
【人獣共通感染症連続講座 第99回】
http://www.primate.or.jp/PF/yamanouchi/99.html

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3月から急増「手足口病」ご用心、重症化の恐れ
【2010年5月17日 読売新聞】

 主に乳幼児の手や足、口内の粘膜に水疱(すいほう)性の発疹(ほっしん)ができる「手足口病」の患者が、3月から急増している。
 全国約3000の小児科医療機関が国立感染症研究所に報告している患者数は、8週連続で、同じ手法で調査を始めた2000年以降で同時期の最多となった。5月2日までの1週間は、1機関当たり0・84人で、昨年同期の約8倍に上った。
 手足口病は、大半は軽症で済むが、今年は重症化の恐れがある「EV71」という型のウイルスが報告の8割を占めている。髄膜炎などの合併症を引き起こすことがあり、感染研は「激しい頭痛や高熱がある時は、すぐに医師の診察を受けてほしい」と呼び掛けている。

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「中国における手足口病の流行-CDC情報」
【2010年05月14日 FORTH】
http://www.forth.go.jp/01_topics/2010/0514.html

現状についての情報
 手足口病は乳児、小児によくみられるウイルス疾患ですが、大人にも感染する可能性があります。2010年初頭から、中国では手足口病症例の増加が報告されてきました。3月には77,000例の罹患症例と40例の死亡例が中国保健省に報告されています。
 中国では、HFMDの流行は春、夏に規則的に起こります。これからの月々で報告症例数は増え続けることが考えられます。
 他のアジア地域の国々でもHFMD症例について報告があります。アジア諸国に旅行する人は、どの国であっても、HFMDに感染するリスクを減らすように注意をしなければなりません。

旅行者に対する助言
 HFMDは世界中で普通にみられるような種類のウイルスによって生じます。この疾患はとても感染性が強く、咳やくしゃみで生じる飛沫、唾液、水疱の内容液、便といった、感染した人の体液と接触することで拡大します。
 旅行者は健康を保つための衛生手段をとることによって、HFMDから身を守る事が可能です。もし、あなたがHFMDの報告がある地域に旅行するのなら、健康を保つために、以下の助言に従うことをお願いします。

1. 石ケンと水で自分の手をいつも洗うようにしてください。特に食事前、咳やくしゃみのあと、トイレに行った後には洗うようにしてください。もし石ケンや水が使えないようなら、アルコールを主成分とした手の消毒用のゲル(少なくとも60%のアルコールを含有したもの)を使用してください。必要な場合に手指消毒用アルコールゲルが確実に使用できるように、旅行カバンの中に入れておくことを考えてください。
2. フォーク、スプーン、コップなどの台所用品は複数の人で共用しないようにしてください。
3. HFMDになった人には濃厚接触しないようにしてください。
 旅行している小児が上記の推奨事項を守れるように大人は助けてあげなければなりません。乳児、小児、テイーネージャーはHFMDに大人よりもかかりやすい傾向があります。

HFMDに罹患した人には、以下のような症状がよくみられます。

1. 発熱、食欲不振、全身倦怠感、咽頭痛
2. 通常、舌、歯肉、頬の内側にみられる口内炎
3. 通常水疱をともなう皮膚の発赤。この発赤は典型例では手掌、足底、臀部にみられます。
 ほとんどのHFMDは軽症で、医学的な処置は必要とせず、合併症なく改善します。しかし、非常にまれにHFMDは重篤な合併症を起こす事があり、これには脳の腫脹(脳炎)などがみられます。
 HFMDを予防できるワクチンはありません。HFMDのために病気になった人には、熱に対して対処するといったような、対症治療を行う以外特別な治療はありません。