2014年10月14日、参議院に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の一部を改正する法律案」が提出された。(10月16日現在、参議院のHP
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/187/gian.htm
に法律案は未掲載。)
この法案は、1月から厚生科学審議会感染症部会で議論され、6月20日に「感染症対策の見直しについて」
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000048811.pdf
として、取りまとめられた提言に基づく改正案であり、必ずしも昨今のエボラウイルス感染症(EVD、エボラ出血熱)の流行に対応したものではなく、それ以前から、鳥インフルエンザA(H7N9)やMERS(中東呼吸器症候群)の流行を踏まえて、検討されていたものである。
今回の主な改正点は、次のとおりである。
(1) 鳥インフルエンザA(H7N9)と中東呼吸器症候群(MERS)を二類感染症へ追加すること
(2) 医療機関または患者等に対する知事による検体等の提出要請(全ての感染症)及び検体の採取措置(迅速な危機管理体制の構築が必要な感染症[一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症に限る。])を創設すること
(3) 五類感染症のうち遺伝子型等の解析が重要なものについて、知事が指定する医療機関又は衛生検査所から検体等を収集できるようにすること
(4) 本来、患者名等の届出を必要としない五類感染症のうち、侵襲性髄膜炎菌感染症と麻しんについては、患者の氏名・住所等の個人情報の届出を義務付けること
(5) 三種病原体等として病原体等管理規制の対象とする多剤耐性結核菌の範囲を一次抗結核薬のみならず二次抗結核薬にも耐性を有するものに限定すること
(6) 試験・研究を目的として人為的に感染させた動物については、獣医師の知事に対する届出を不要とすること
このうち、新聞報道等では、「エボラ熱やペストなどの1類感染症、結核やH5N1型鳥インフルエンザなどの2類感染症、新型インフルエンザなどについては、患者や医療機関の同意がなくても検査に必要な血液や尿などを採取できる」ことが強調され、「血液の強制採取可能に」、「感染症疑い患者から強制採血可能に」といったセンセーショナルな見出しが付けられている。
しかし、冷静に考えれば分かるように、エボラ出血熱等の感染症患者から、患者の同意・協力なしに安全に検体を採取することは不可能であり、新聞等が伝えるような「強制的な採血」など、余りにも非現実的な想定である。
厚生科学審議会感染症部会での議論を見ても、今回の改正で想定しているのは、診断・治療等の診療目的で患者から採取され、医療機関が保持している検体を患者等の同意が得られなくとも知事が入手できるようにすること、患者のみならず医療機関・医師等の同意・協力も得られない場合には、都道府県知事・職員が直接、患者を説得し、同意を取り付けること等であることは明らかであり、患者を拘束等して、あるいは麻酔等により心神喪失の状態に陥らせて、採血するというようなことは全く想定されていない。
また、患者の同意を得られないということと、患者に無断で検体を入手するということとは、全く別の次元の問題であり、知事が検体を入手するに際しては、患者に書面等で通知を行うことを予定しており、患者が知らぬ間に輸液ライン等から血液を取得するというようなことも想定されていない。
基本的なスタンスとしては、罰則規定の無しの患者の義務規定と、いざとなれば同意がなくとも知事が行える根拠規定を武器に、自発的に協力してくれるように患者を説得するということになっている。
とはいえ、一度、法律が制定されてしまえば、立法時の議論や法案作成者の意図等は無視され、その時々の為政者の都合の良いように恣意的な解釈が行われてしまうことも決して稀ではなく、そういう意味では将来、感染疑いの患者から有無を言わさず強制的に採血が行われるというようなことが常態化する虞も完全にないとは言い切れず、新聞報道等は必ずしも杞憂ではなく、将来に向けての警鐘とも言える。
第5回 厚生科学審議会感染症部会資料 2014年6月20日
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000048818.html
第5回 厚生科学審議会感染症部会議事録 2014年6月20日
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000053409.html
第4回 厚生科学審議会感染症部会議事録 2014年5月28日
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000048258.html
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「エボラ出血熱に備え感染症法改正案決定」
【10月14日 NHK】
西アフリカを中心にエボラ出血熱による死者が増え続けるなか、政府は、14日の閣議で、国内で感染が疑われる患者が出た場合に備えて、都道府県が本人や医療機関の同意がなくても検査に必要な血液や尿などを採取できるとした、感染症法の改正案を決定しました。
WHO=世界保健機関によりますと、エボラ出血熱に感染、または感染した疑いで死亡した人は、西アフリカを中心に4000人を超えています。
こうしたなか、政府は、14日の閣議で、国内で感染の疑いのある患者が出た場合に備えて、感染症法の改正案を決定しました。
改正案では、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなどの危険性が高い感染症に感染した疑いがある場合に、都道府県は患者や医療機関の同意がなくても検査に必要な血液や尿などを採取できるとしています。
また、国内でおよそ70年ぶりに感染が確認されたデング熱について、都道府県は検査に必要な血液などの採取を患者や医療機関に要請できるとしています。
政府は、感染症法の改正案を今の臨時国会で成立させたいとしています。
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「血液の強制採取可能に 感染症法改正案を提出」
【共同通信 2014年10月15日】
政府は14日、エボラ出血熱や結核、新型インフルエンザなど、国民生活に重大な影響を与える感染症の疑いがある場合に、患者が拒否しても強制的に血液などの検体を採取できる感染症法改正案を閣議決定し、臨時国会に提出した。
西アフリカを中心としたエボラ熱の流行や、約70年ぶりにデング熱の国内感染が確認されたことなどを受け、重大な感染症の拡大防止に向けた情報収集体制の強化を図る。
改正案には都道府県知事の権限として、患者や医療機関に対し、血液などの検体の提出要請をできるとする規定を盛り込んだ。致死率が高いエボラ熱やペストなどの1類感染症、結核やH5N1型鳥インフルエンザなどの2類感染症、新型インフルエンザなどについては、患者が検体の提供を拒んでも採取を実施できる。
さらに中東を中心に患者が増えている中東呼吸器症候群(MERS)や中国で広がったH7N9型鳥インフルエンザを2類感染症に指定、患者の強制的な入院などを可能にする。
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「感染症疑い患者から強制採血可能に 法改正案を閣議決定」
【2014/10/14 日経新聞】
感染症の検査体制の強化に向け、政府は14日、感染症法の改正案を閣議決定した。エボラ出血熱や新型インフルエンザなど国民の健康に重大な影響を与える恐れのある感染症の疑いがある場合、患者から強制的に血液などの検体を採取することを認める内容で、今国会での成立を目指す。
改正案ではこのほか、全ての感染症について、都道府県知事の権限として、患者や医療機関に血液など検体の採取や提出に応じるよう要請できると規定した。
これまでは医療機関が患者の検体を国や自治体に提供することについて明確な規定がなく、個人情報を理由に提供に応じないこともあった。西アフリカでのエボラ出血熱の流行や国内感染が広がるデング熱など、海外から持ち込まれる感染症を迅速に調べるため、法制化が必要と判断した。
改正案では、中東などで流行している中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)や、中国などで感染が相次ぐH7N9型鳥インフルエンザを危険度が2番目に高い「2類感染症」の枠組みに追加することも盛り込んだ。
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