臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言 -2ページ目

臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言

心に移り行くよしなしごとをそこはかとなく書き連ねています。

 次の写真は、児童(18歳未満の者)が他人の性器等(乳首)を触る行為に係る児童の姿態を写したものである。
 インターネット上に掲載され、全世界に公開されている。撮影したのは米国農務省(USDA)のカメラマンで、Public Domainとして、Wikipediaなどに広く転載されている。

$日本一?小さな町で働く医系技官の独り言
http://web.archive.org/web/20041016211519/www.usda.gov/oc/photo/02c2041.jpg

 ほとんどの人は、この写真を児童ポルノだとは思わないし、この写真を提供している米国政府を非難したり、犯罪者と断じたりはしない。

 では、児童ポルノとは、何だろうか。
 児童ポルノの定義は一様ではないが、「児童の権利に関する条約」(1989年)に附属する
「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」(2000年)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdfs/je_pamph.pdf
においては、

「児童ポルノ」とは、現実の若しくは擬似のあからさまな性的な行為を行う児童(18歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。)のあらゆる表現(手段のいかんを問わない。)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう。(第2条C項)

Child pornography means any representation, by whatever means, of a child engaged in real or
simulated explicit sexual activities or any representation of the sexual parts of a child for primarily sexual purposes.

とされている。

 また、日本の「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(1999年)においては、

「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童(十八歳に満たない者)の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。(第2条第3項)
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等(性器、肛門又は乳首)を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

とされている。

 つまり、児童との性行為(類似行為を含む)や児童同士の性行為を表現したもの、または、児童の姿態を表現したもののうち、性欲を興奮させたり、刺激したりするものが児童ポルノである。

 上の写真は、児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態を表現したものであることに間違いはないが、性欲を興奮させたり、刺激したりするものではないので、児童ポルノとしては扱われていない。

 さて、最近、裸の女性アイドルの乳首に少年が手を触れている写真が児童ポルノではないかと騒いでいる人がいる。
 その中には、日本では「乳首を児童に触らせる行為」は法律で禁止されているとまで言う人もいるが、これは全くの誤りである。もしも、本当に禁止されているのであれば、母乳による育児はできないことになってしまう。
 禁止されているのは、性行為等として行われるもの、あるいは、性欲を刺激したり、満たしたりするために行われるものである。

 「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(1999年)においても、「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」(第3条)と、わざわざ一条を設けて注意を喚起し、日本国憲法が保障する表現の自由(第21条)に配慮している。

 単純に、児童が乳首に触れている写真
http://www.ayomi.co.jp/photo/0606/kaminuma_3.JPG
=児童ポルノではないのである。

 とは言え、世の中には、俗に○○フェチと言われるような、他人とは、やや異なる物や行為に性的な興奮を感じる人もいるので、「外国人の少年が上半身裸の河西智美さんの胸部を後ろから触っている写真」を見て、性欲を刺激される人もいるであろう。
 そういう、かなり特殊な性的嗜好を有する人にとっては、このような写真も児童ポルノかも知れないし、そういう性的嗜好を有する人達の間で共有する目的で作成したとすれば、この写真も立派な児童ポルノとなる。

 しかし、ここで誤解してはいけないのは、こういう特殊な性的嗜好を持った人達が性的な興奮を感じるのは、乳首を隠されている川西智美さんの裸体に対してではなく、女性の乳首を後ろから隠している少年の姿に対してである。こういう人達にとって、少年の前に立つ女性は、極端な話、90歳の肥満体の老婆であっても構わないのである。

 一方、あの写真が児童ポルノだと騒いでいる人は、少年の前に立つ女性を90歳の肥満体の老婆に変われば、グロテスクと非難する人はいても、もはや児童ポルノとは言わなくなるだろう。
 つまり、外国人の少年によって乳首を隠されている「裸の河西智美さん」の姿に人々が興奮するのであれば、この写真は、児童ポルノではなく、単なるポルノ、または猥褻図画なのである。


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児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
(平成十一年五月二十六日法律第五十二号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

(目的)
第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2  この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一  児童 
二  児童に対する性交等の周旋をした者
三  児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

(適用上の注意)
第三条  この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。


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日本国憲法
(昭和二十一年十一月三日憲法)

   第三章 国民の権利及び義務
第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十九条  何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。


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『AKB不適切写真 警視庁、講談社幹部を聴取 児童ポルノ禁止法抵触か』
【産経新聞 2013年1月18日】

 アイドルグループ「AKB48」のメンバー、河西智美さん(21)の写真集の一部に不適切な表現があったとして、発行元の講談社が写真集の発売を延期するなどした問題で、警視庁少年育成課が児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で、同社の編集幹部から事情聴取していたことが17日、捜査関係者への取材で分かった。同課では、外国人の少年が上半身裸の河西さんの胸部を後ろから触っている写真が「児童ポルノ」の提供などにあたるか慎重に調べている。

 問題の写真は、講談社が2月4日に発売を予定していた河西さんの写真集の表紙と、1月12日発売の漫画誌「週刊ヤングマガジン」上の写真集の発売告知用に使われる予定で、10日付のスポーツ紙やインターネット上にも掲載された。

 捜査関係者によると、同課は掲載された写真を確認した上で、「写真が本物なら、同法で禁止された乳首を児童に触らせる行為にあたる」と判断。翌11日に編集幹部から写真撮影の経緯などについて事情を聴いた。編集幹部は「不適切な表現があった」として、ヤングマガジンの発売を延期すると話したという。

 同課は発売を自主的に延期した点などを考慮しつつも、同法違反容疑での立件も視野に捜査。捜査幹部は「児童ポルノへの罰則が日本より厳しい欧米系とみられる少年がモデルに使われているため、国際的に問題視される可能性も考慮した」と捜査の背景を説明する。

 講談社は17日、ホームページなどで今回の経緯を公表し、「写真集の企画内容についての責任は発行元にある。出演者への配慮が欠けているという指摘などに謙虚に耳を傾け、今後の編集業務に生かしていく」と釈明。同社広報室は「警視庁からの事情聴取については確認できていないので答えられない」としている。

 岸信介(1896-1987)は、1957年(昭和32年)2月25日から1960年(昭和35年)7月19日まで、3年余りに渡り、内閣総理大臣を務めた。

 岸元首相は、1941年(昭和16年)12月、東條英機内閣の商工大臣として、「米英両国に対する宣戦の詔書」に副署している。

 また、1942年(昭和17年)の第21回衆議院議員総選挙(翼賛選挙)では翼賛政治体制協議会(大政翼賛会)の推薦を受け、初当選を果たしている。

 昭和16年の「米英両国に対する宣戦の詔書」では、米英両国は東アジアの争乱を助長し、平和の美名に隠れて、東洋制覇の野望を抱いていると非難した上で、米英両国は日本の周辺において軍備を増強して、日本の平和的な通商・貿易を妨害するだけでなく、遂に経済制裁により日本の生存に重大な脅威を加えるに至ったため、日本はやむなく『自衛のため』の戦争を始めるのだと宣言されている。

 また、昭和17年の翼賛選挙では、東條内閣に協力する翼賛政治体制協議会が戦争遂行という国策に忠実な議員のみによって形成される新しい議会制度を確立するという目標を掲げて、軍部の方針を追認する候補者を推薦しただけでなく、国策に異を唱える非推薦候補者への選挙妨害が公然と行われた。

 ところで、戦後の昭和32年(1957年)に首相となった岸信介は、昭和35年(1960年)2月の施政方針演説において、興味深い発言をしている。

 岸元首相は、アイゼンハワー大統領(当時)と会談した上で、米国が世界平和のために並々ならぬ熱意と決心とを有していることに深い感銘を受けたと述べ、国際社会を形づくるすべての者が口に平和を唱えるのみでなく、自ら平和への道を実践するべきであり、すべての国家、国民がひとしく国連憲章の精神に徹底し、人間の尊厳と自由とを尊重しつつ、国際紛争はすべてこれを平和的に解決するという原則を実践すべきであると主張している。

 19年前に、米国は平和を詐称する侵略国家であると非難し、日本は自衛のために軍事力をもって米国を粉砕するのだと宣言したと同じ人物とは思えない発言である。
 ちなみに、国連憲章は第2次世界大戦中に米国等の連合国により作成・調印されているので、日本は「敵国」とされている。その国連憲章の精神を受入れ、徹底するというのは、本心からの言動とすれば、素晴らしいことである。

 また、岸元首相は、民主主義について、民主政治が真の成果を上げるためには、国会において、良識と寛容の精神に立脚して、あくまでも言論によって審議を尽くさなければならないと述べた上で、院外における集団示威運動による言論に対する不当の圧迫を強く非難するのみならず、憲政の常道を確立することについて、渾身の努力を尽くしたいとまで誓っている。

 18年前に、議会内での自由な発言を封じるだけでなく、反対派が国会議員になることさえ妨げようとしたのと同じ人物の発言とは思えない発言である。

 もっとも、ここでいう「憲政の常道を確立する」という言葉の意味は定かではない。戦前の大日本帝国憲法の下では、憲法上は誰を首相に指名しても良いのだが、議会で第一党を占めた政党の党首を首相に指名するのが「憲政の常道」であるというような使い方をされていた。昭和35年(1960年)当時は、いわゆる60年安保闘争の最中であり、岸内閣を倒そうという勢力に対して、断固として戦い、首相を辞めないという意思表示とも解釈できる。

 確かに20年余りの歳月は主義主張だけでなく、考え方や性格さえをも変えてしまうほどの長い年月ではあるが、果して本当に変わったのであろうか。
 それとも、その時々の時代に迎合していただけなのであろうか。

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『米英両国に対する宣戦の詔書』
【昭和16年(1941年)12月8日】

 天佑(てんゆう)ヲ保有シ万世一系ノ皇祚(こうそ)ヲ践(ふ)メル大日本帝国天皇ハ昭(あきらか)ニ忠誠勇武ナル汝有衆(ゆうしゅう)ニ示ス。

 朕茲(ここ)ニ米国及(および)英国ニ対シテ戦(たたかい)ヲ宣ス。

 朕ガ陸海将兵ハ全力ヲ奮(ふるっ)テ交戦ニ従事シ、朕ガ百僚有司(ひゃくりょうゆうし)ハ励精(れいせい)職務ヲ奉行(ほうこう)シ、朕ガ衆庶(しゅうしょ)ハ各々其ノ本分ヲ尽シ、億兆一心(いっしん)国家ノ総力ヲ挙ゲテ征戦ノ目的ヲ達成スルニ遺算(いさん)ナカラムコトヲ期(き)セヨ。

 抑々(そもそも)東亜ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄与スルハ、丕顕(ひけん)ナル皇祖考(こうそこう)、丕承(ひしょう)ナル皇考(こうこう)ノ作述(さくじゅつ)セル遠猷(えんゆう)ニシテ、朕ガ拳々(けんけん)措(お)カザル所。

 而(しこう)シテ列国トノ交誼(こうぎ)ヲ篤(あつ)クシ、万邦共栄ノ楽(たのしみ)ヲ偕(とも)ニスルハ、之亦(これまた)帝国ガ常ニ国交ノ要義ト為ス所ナリ。

 今ヤ不幸ニシテ米英両国ト釁端(きんたん)ヲ開クニ至ル。洵(まこと)ニ已(や)ムヲ得ザルモノアリ。豈(あに)朕ガ志ナラムヤ。

 中華民国政府曩(さき)ニ帝国ノ真意ヲ解セズ、濫(みだり)ニ事ヲ構ヘテ東亜ノ平和ヲ撹乱(かくらん)シ、遂(つい)ニ帝国ヲシテ干戈(かんか)ヲ執(と)ルニ至ラシメ、茲(ここ)ニ四年有余(ゆうよ)ヲ経(へ)タリ。

 幸(さいわい)ニ国民政府更新スルアリ。帝国ハ之(これ)ト善隣ノ誼(よしみ)ヲ結ビ相(あい)提携スルニ至レルモ、重慶ニ残存スル政権ハ、米英ノ庇蔭(ひいん)ヲ恃(たの)ミテ、兄弟(けいてい)尚(なお)未(いま)ダ牆(かき)ニ相鬩(あいせめ)クヲ悛(あらた)メズ。

 米英両国ハ、残存政権ヲ支援シテ東亜ノ禍乱(からん)ヲ助長シ、平和ノ美名ニ匿(かく)レテ東洋制覇ノ非望ヲ逞(たくまし)ウセムトス。

 剰(あまつさ)ヘ与国ヲ誘(いざな)ヒ、帝国ノ周辺ニ於テ武備ヲ増強シテ我ニ挑戦シ、更ニ帝国ノ平和的通商ニ有(あ)ラユル妨害ヲ与ヘ、遂ニ経済断交ヲ敢(あえ)テシ、帝国ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ。

 朕ハ政府ヲシテ事態ヲ平和ノ裡(うち)ニ回復セシメムトシ、隠忍久シキニ弥(わた)リタルモ、彼ハ毫(ごう)モ交譲(こうじょう)ノ精神ナク、徒(いたずら)ニ時局ノ解決ヲ遷延(せんえん)セシメテ、此ノ間(かん)却(かえ)ッテ益々経済上軍事上ノ脅威ヲ増大シ、以テ我ヲ屈従セシメムトス。

 斯(かく)ノ如クニシテ推移セムカ、東亜安定ニ関スル帝国積年ノ努力ハ悉(ことごと)ク水泡ニ帰シ、帝国ノ存立、亦(また)正(まさ)ニ危殆(きたい)ニ瀕(ひん)セリ。

 事既(ことすで)ニ此ニ至ル。帝国ハ今ヤ自存自衛ノ為、蹶然(けつぜん)起(た)ッテ一切ノ障礙(しょうがい)ヲ破碎(はさい)スルノ外(ほか)ナキナリ。

 皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)ノ神霊、上(かみ)ニ在リ。

 朕ハ汝有衆(ゆうしゅう)ノ忠誠勇武ニ信倚(しんい)シ、祖宗(そそう)ノ遺業ヲ恢弘(かいこう)シ、速(すみやか)ニ禍根ヲ芟除(さんじょ)シテ、東亜永遠ノ平和ヲ確立シ、以テ帝国ノ光栄ヲ保全セムコトヲ期ス。

  御 名 御 璽


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『岸内閣総理大臣の施政方針に関する演説』
【第34回国会 衆議院本会議 昭和35年(1960年)2月1日(月)】

○国務大臣(岸信介君) 第三十四回国会の休会明けに臨み、当面する諸問題と、これに対処する施政方針を明らかにしたいと思います。
 まず、外交施策の基本に関して、私の所信を率直に披瀝いたしたいと存じます。
 私は、このほど、日米両国間の相互協力と安全保障に関する条約等に署名のため訪米いたし、あわせてカナダを訪問の上帰国いたしたのであります。その際、米国におきましてはアイゼンハワー大統領及びハーター国務長官と、カナダにおきましてはディーフェンベーカー首相と親しく会談いたし、現在の国際情勢を検討するとともに、今後の日米、日加友好関係の強化、世界平和への努力等に関して十分に意見の交換を行なったのであります。
 その際、私は、これら両国の首脳、特にアイゼンハワー大統領が世界平和のためになみなみならぬ熱意と決心とを有せられることに深い感銘を受けたのでありまして、同大統領が、来たるべき巨頭会談に際して、国際的緊張緩和のためにあらゆる努力を払うべき旨披瀝せられましたことは、まことに力強く感じたところであります。
 近く東西巨頭会談を迎えようとする世界の趨勢は、自由主義社会と共産主義社会とが共存し得るための最小限度の共通の場を見出そうとする方向に向かっているのであります。しかも、この機運は、東西の集団安全保障を背景とする軍事的均衡のもとにかもし出されているのであります。従って、現在の段階におきましては、平和と共存への努力が実を結ぶことを強く希望しつつも、なお自由諸国がみずからのかたい決意と団結と力とを保つ必要を認めざるを得ないのであります。(拍手)
 今や、世界は人類の将来を決する上にきわめて重要な段階に入りつつあります。この時期にあって何よりも大事なことは、国際社会を形づくるすべての者が、口に平和を唱えるのみでなく、みずから平和への道を実践することであります。(拍手)すなわち、すべての国家、国民がひとしく国連憲章の精神に徹底し、人間の尊厳と自由とを尊重しつつ、国際紛争はすべてこれを平和的に解決するという原則を実践することによって、初めて本来の意味における世界の雪解けも期待し得るということであります。
 今回の訪米の際、アイゼンハワー大統領と私は、日米両国の現在の関係が、このような認識の上に、主権平等と相互協力の原則に基づいて結ばれたものであり、両国は、単に政治面におけるのみならず、経済面におきましても、ひとしくその利益を共通にするものであるということを、あらためで確認したのであります。(拍手)ここに、日米両国の友好関係は、今日まで多少とも残存しておりましたその戦後的色彩を一掃し、全く新たな段階に入ったのであります。
 今回署名いたしました両国間の相互協力及び安全保障条約は、世界のすべての国々が平和と自由とのために国連憲章の原則を厳格に実践し、自国の安全を国連の平和と安全を維持する機能にゆだねることができるようになるまでの間、理想と進路とを同じくする日米両国が、厳に国連憲章のワク内において真に対等の協力者として団結を強固にし、それぞれの国家及び国民の平和と安全とを擁護すべきことを約束したものであります。(拍手)本条約は、国連憲章によって否認された侵略行為が発生しない限り、決して発動されることのない平和と自由のための条約なのであります。(拍手)従って、両国が極東の平和と安全の確保に力を合わせますことは、そのまま、また世界平和の維持につながるものでありまして、両国のこのような努力が世界の緊張緩和の方向に逆行するものであるかのような見解は、本条約の本旨とする平和的目的を全く見誤ったものと申すべきであります。(拍手)
 私は、わが国外交の基調を、自由主義世界との緊密な提携に置いているのでありますが、もとより、これは決して共産主義の世界を敵視いたすものではありません。わが国は、自由主義世界の一員として、共産主義世界との共存の道を見出すための熱意と努力を欠くものではありません。ただ、平和と共存の道は、相互の立場の尊重と内政不干渉の原則が誠実に実践されることによってのみ可能であると確信いたします。(拍手)わが国といたしましても、東西会談をもたらした世界情勢の推移を見守りつつ、平和外交の本旨に従い、あとう限り善隣外交を推進いたしますことは、私がつとに強く念願しているところであります。
 さらに、今回の訪米に際しまして、米国政府との間に意見の一致を見ました点は、日米両国がアジアの発展のために今後とも一そう密接に協力すべきこと、及び、アジア問題の国際的討議にわが国が積極的に参加することが望ましいということであります。特に、低開発地域の経済的発展を促進することが世界平和に資するゆえんであるという認識の上に、わが国民が今後ともアジアの経済的発展のために果たすべき使命の重要性については、日米共同声明にも述べられているところであります。御承知のように、わが国は、本年初頭より国連経済社会理事会の理事国としてその活動を開始いたしたのでありますが、特に、国連を通じて低開発諸国の経済開発に協力いたしますことは、単にこれら諸国の繁栄と福祉に資するゆえんであるのみならず、同時にまた世界の平和とわが国自身の繁栄にも資するところ大なるものがあると信ずるのであります。
 政府は、本年が真の意味の雪解けを世界にもたらし始める年であることを衷心念願いたしつつ、米国を初めとする自由民主主義諸国と相携え、平和を愛好する国際社会の一員として、いよいよ平和と自由のために積極的にその力をささげるべく、その決意を新たにするものであります。(拍手)
 顧みまするに、終戦後ここに十数年、この間、わが国の経済はたゆまざる国民の努力と英知とによって飛躍的な発展を遂げて参りました。すなわち、最近十年間の経済成長率は戦前の実績を上回り、欧米先進諸国に比しおよそ二倍の速度を示しており、それとともに国民生活も向上し、最近では、国民一人当たりの消費水準は戦前に比し三割強の上昇を示しております。このようにすみやかな経済の成長率は世界の驚異とされており、まことに同慶にたえないところであります。われわれは、この際、過去の輝かしい経済回復の足取りを回顧し、自信と誇りを持って今後の国力発展の施策を進めるべき時期に際会していると思うのであります。
 最近の国内経済を見ますと、生産活動の上昇は著しく、国際収支は依然として黒字基調を維持し、これとともに雇用情勢は改善され、国民生活も一段と充実して参っております。しかしながら、最近の企業の根強い投資意欲や旺盛な資金需要にもかんがみ、政府といたしましては、今後、経済が行き過ぎに陥ることなく、引き続き全体として堅実な姿をもって伸張するよう配慮いたす所存であります。
 また、世界経済は、本年もおおむね順調に推移するものと考えられますが、商品、資本などの国際流通の活発化による相互利益を増進するための貿易・為替自由化の動きは急速に進展しつつあります。わが国も、自由主義諸国の一員として、世界の大勢におくれをとることなく、貿易・為替の自由化を推進し、わが国経済の一そうの発展をはかっていく方針であります。これが推進に伴い、わが国産業の一部には多少の摩擦を生ずることもあろうかと思いますが、政府におきましては、自由化に対する所要の準備に遺憾なきを期しつつ施策を進めていきたい考えであります。民間企業におかれても、国際競争力を強化するため、設備の近代化、自己資本の充実、経営の合理化など、体質の改善にあらゆる努力を傾注されるよう希望してやみません。
 このような情勢のもとにおける今後の経済運営の基本的態度としては、経済の安定と均衡を堅持し、着実な経済成長を実現して参ることにありますが、なお、さらに長期的な観点から、今後おおむね十年間に国民所得を倍増し、もって雇用を改善し、国民経済と国民生活の均衡ある発展をはかるため、新しい経済計画の策定について現在準備を進めております。政府は、この計画の推進にあたりましては、各種産業間の跛行的発展の是正などに十分意を用い、経済全般が均衡のとれた発展を遂げるよう留意することはもちろんであります。
 昭和三十五年度の予算と財政投融資計画は、右のような基本方針に基づき、財政の健全性を堅持し、財政面から経済に刺激を与えることを厳に避けたのであります。これとともに、この予算におきましては、当面の緊急課題である国土保全及び災害復旧対策に最重点を置き、その対策に遺憾なきを期したのでありますが、その他の重要経費につきましても、世界経済における貿易・為替自由化の大勢に即応しつつ、わが国経済を一そう安定した成長に導き、もって国民所得倍増の基礎的諸条件を整備するために、社会保障制度の充実、文教及び科学技術の振興、農業基盤の整備、中小企業対策、貿易の振興、東南アジアを中心とする海外経済協力の推進及び道路、港湾、工業用水等を主体とする産業基盤の強化などについて特に配慮を加える等、諸般の対策につき充実を期したのであります。(拍手)
 明年度予算の詳細については、これを関係閣僚の演説に譲り、私は、施策のおもなるものについて述べたいと思います。
 まず、治山治水等国土の保全については、民生の安定、産業基盤の強化等の見地から、政府は、つとに施策の重点としてその促進をはかって参りましたが、昨年の大水害の経験にもかんがみ、明年度予算においてはこれらの国土保全事業を政府の最重点施策として取り上げ、新たな構想のもとに総所要経費一兆円余に及ぶ治山治水十カ年計画を樹立し、計画的かつ総合的に治山治水及び高潮対策事業の強力な推進をはかることにいたしております。なお、これらの事業を実施するため、治水特別会計の設置等必要な諸体制についても、あわせて整備する所存であります。
 社会保障の充実は、かねて私が最も重視してきたところであります。昨年発足した国民年金制度は、本年三月、老齢・障害・母子の三福祉年金が実施される運びとなり、明年四月からは拠出制の国民年金制度が発足することとなりますが、政府は、この制度の運営の円滑な実施のため、所要の準備に遺漏なきを期する所存であります。昭和三十五年度末を目標とする国民皆保険の達成は、関係各方面の深い理解と協力とによりきわめて順調に進展を見ておりますが、医療金融公庫の設立、環境衛生諸施策の拡充と相待って、国民保健の向上への大きな飛躍が期待されるのであります。また、住宅問題についても、明年度は特に低額所得者の住宅供給に力を注ぎたい所存であります。
 文教の振興は、わが国が世界の進運に伍して将来の繁栄を確保するための根本であります。いわゆるすし詰め学級解消のため、文教諸施設を整備し、教職員定数を充実するとともに、道徳教育を振興し、基礎学力を高める等、教育内容の刷新充実に遺憾なきを期したいと存じます。(拍手)
 世界各国の科学技術の進展は近年特に目ざましく、その影響するところは、政治・経済・外交等広く国政の各分野に及び、今や一国の経済成長と国民福祉の向上のかぎを握る重要因子であります。政府は、従来とも青少年に対する理科教育・産業教育の充実、大学・試験研究所の整備等に特別の留意を払っておりますが、特に明年度は、基礎科学の強化はもちろん、科学技術振興の長期的かつ総合的基本方策を樹立し、科学技術振興の確固たる体制を確立いたしたい決心であります。
 農林漁業の振興については、その生産性の向上、農漁民の経済的安定等を目途として、将来にわたる基本政策を樹立する所存でありますが、当面、他産業との関係において均衡的発展をはかることに重点を置き、農業基盤の整備を強力に推進するとともに、農林水産物の価格の安定と流通の合理化には積極的措置を講ずることといたしております。なお、農漁村子弟対策を強化し、特に二、三男の就業機会の拡大をはかる考えであります。
 中小企業については、政府は、つとにその振興策に力を注いで参ったのでありますが、明年度におきましては、さらに施策の飛躍的強化をはかるとともに、特に商工会の活用を中心として小規模事業者の事業活動の促進に意を用いる所存であります。
 地方財政については、財政健全化のための諸施策の推進と経済状況の好転等と相待ち、ここ数年来著しく改善されて参りました。今後とも、国家財政と地方財政との調整を保ちつつ、地方財政の長期的健全化の確立を期したい所存であります。幸い、明年度においては、地方税等に相当の自然増収が生ずる見込みでありますが、他方、住民税の減税に伴う地方歳入の減収も考えられますので、当分の間、所要の財源措置を講ずることといたしました。
 雇用問題については、政府は、経済の安定的成長をはかるとともに、特に公共事業と財政投融資との増大により積極的な雇用の拡大を期したい考えであります。また、最近特に著しい技術革新に即応する近代的技能労働力の養成と確保との必要に対処し、職業訓練制度の積極的推進に努めるとともに、農漁村、石炭産業等の労働力移動を円滑にし、もって就業構造の近代化をはかりたいと思います。
 わが国の労働運動が、労働者諸君の良識によって逐年健全化の道をたどりつつあることは、まことに同慶にたえません。わが国が世界の先進諸国に伍して繁栄を得るためには、労働者諸君が社会的責任を自覚し、公共の福祉を無視することなく、秩序正しくその正当な権利を主張し、行使するという健全な労働慣行と労働秩序の確立がはかられなければならないのであります。(拍手)
 遺憾ながら、今なお、労働運動あるいは大衆運動の一部には、法秩序を無視して、もっぱら政治闘争や権力闘争を推進することにより、その特殊な政治的意図の実現をはかろうとするものがあります。このようなことは、民主政治の基盤たる法治主義を否定するものでありまして、政府は、これに対し断固たる態度をもって臨む決意であります。(拍手)また、前途有為な学徒諸君の一部に見られる暴力的破壊行動に対しては、特に深い反省を促すものであります。(拍手)
 思うに、わが国永遠の繁栄を期する政治の前提として忘れてならないのは、青少年と婦人の生活並びに文化の向上であります。政府は、社会教育の振興、スポーツの普及奨励、母子保健の充実はもちろん、青少年及び婦人、特に母性に対する諸施策を、社会・経済・文化のあらゆる分野において強力に推進する考えであります。わが国の将来をになう青少年諸君と婦人諸君が、明るい希望に燃えて心身の修練に励み、社会におけるめいめいの重要な役割を正しく自覚され、強い自信と誇りを持ってわが国の発展に貢献せられるよう念願してやみません。(拍手)
 以上申し述べたところで明らかなように、明年度予算の特色は、健全財政の線に沿って、政府及び与党の重要な公約をことごとく取り入れ、その実現をはかった予算であるということであります。(拍手)私は、この予算の実施により、わが国の経済はいよいよ安定した成長発展を続け、国民所得倍増の基礎的諸条件は整備され、国民生活も向上し、雇用も拡大し、福祉国家の建設に巨歩を進めるものと確信いたす次第であります。(拍手)
 最後に、私は、民主政治のあり方について一言したいと存じます。
 民主政治が真の成果を上げるためには、各政党が、国会という共通の場において、良識と寛容の精神に立脚して、あくまでも言論によって審議を尽くし、最終的には多数決によって決するという議会主義が根底になければならないと信ずるのであります。(拍手)
 しかるに、最近、国会における審議権を放棄して、話し合いの場から離脱することがしばしばであり、他面、院外においては、国会周辺における集団示威運動による言論府に対する不当の圧迫等が繰り返され、ために、国会運営の正常化が阻害されるのみならず、国会の神聖を傷つけ、議会政治の秩序を乱したことは、まことに遺憾のきわみと申さなければなりません。(拍手)
 この際、われわれは、議会主義に対する認識を新たにし、国会の権威を高め、憲政の常道を確立することについて、渾身の努力を尽くしたいと心から願うものであります心(拍手)
  ここに、所信の一端を述べ、国民諸君の一段の理解と協力を切望してやみません。(拍手)
 記事によると「厚生労働省の検証結果では、現在支給されている基準額は保護を受けていない一般の低所得世帯の生活費に比べて、夫婦と子供2人の4人世帯で月約2万7千円(14.2%)多かった。」とされているが、公表されている「第12回社会保障審議会生活保護基準部会資料(平成25年1月16日(水))」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002squ7.html
を見る限り、生活保護基準部会報告書(案)などには、このような具体的な数字の記載はない。

 マスコミ各社が報道していることから、誰かが作成して配布した資料に基づくものだと思われるが、算出方法等の説明が一切なく、どういう経緯で、このような数字が出回っているのか、いささか理解しがたいところである。

 生活扶助の「支給額を適正な水準に見直すこと」は当然のことであるが、「適正な水準」とは具体的には、どの程度の水準なのであろうか。

 生活扶助の支給水準が最下層(10段階で一番下)の低所得勤労者の消費支出を上回るような事態が現出したのは、支給水準が引き揚げられたためではなく、過去20年余り勤労者の所得が年々低下し、生活水準・消費支出が低下していることが主たる原因である。
 また、勤労所得の低下が就労意欲を損ね、働くことよりも生活保護を選択する傾向を助長している面も否めない。

 生活扶助の「支給額を適正な水準に見直すこと」も重要であるが、そもそも比較の対象となっている低所得勤労者の生活向上こそ、政治、特に厚生労働行政が目指すべき方向ではないだろうか。

 記事では「働けるのに受給している人」を40万人としているが、これは、どのような人達なのであろうか。
 生活保護の受給者155万世帯(213万人)から、世帯主が高齢者、障害者、傷病者、子を持つ女性(母子家庭)であるものを除くと、残りは29万世帯弱となり、確かに総数では40万人余りになる。しかし、この中には壮健な男子だけでなく、婦女子や傷病者、高齢者も含まれる。世帯主が働けるのなら、その家族は女子供、老人、病人も含めて、一人残らず働けというのであろうか。
 確かに一部には不正受給をしている者もいるかも知れないが、そうした個別の問題と給付水準全体の問題とは分けて考えるべきである。

 長引く不況の下、働ける受給者の自立が進まないのは、生活保護の仕組みに問題があるというよりも、保護を受けて暮らすよりも働く方が損になる現在の社会経済状況そのものに問題があるのであるから、これを改善することを考えるべきであろう。

 例えば、ゼロ金利政策が続き、銀行の預金金利が1%を大きく下回る現状で、株式の配当利回りが3%余りというのは、あまりにも高すぎるのではなかろうか。
 マクロ経済に与える打撃は大きいが、株主への配当を制限して、その分を労働者への分配・給与に回させるというような社会主義的な施策も必要ではないかと思う。
 アベノミクスで円安、株高になっても、各企業が配当性向を高める一方で、経営努力、企業努力、コスト削減等と称して、労働者の給与水準の切り下げに励む風潮が改まらない限り、保護を受けて暮らすより働く方が損になる構造は改まらないであろう。
 「最低賃金で働く人の手取り収入が保護の支給水準を下回る地域」では、最低賃金の引き上げこそが、この逆転現象の解消にもつながり、受給者が働く意欲を持ちやすくなるのである。

 医療費の抑制のために、受診者に病院窓口での自己負担を求めるのは一つの方策である。現在1割に据え置かれている高齢者についても原則2割の自己負担を早急に求めるべきであろう。しかし、生活保護・医療扶助の抑制策としては、自己負担を求めるのは、いささか副作用が強すぎるのではないだろうか。

 厚生労働省の検証の元データとなっている「平成21年全国消費実態調査」
http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/index.htm
によれば、高齢者世帯は平均1000万円以上、低所得世帯でも数百万円程度の貯蓄を有しているが、生活保護は貯蓄を取り崩した後に受給するのが原則なので、保護世帯にはほとんど貯蓄がない。また、低所得者の中には傷病により医療を必要とするようなれば、たちどころに収入を失い、保護世帯となるものも少なくない。

 全額公費の医療扶助を悪用して、不当な利得を得ている医師・医療機関が存在しているからといって、受給者に窓口での一部負担を強いれば、生活に余裕のない受給者は医療を受けることができなくなる。結果的に、受給者が医療機関を受診できずに死亡すれば、受給者は減り、3兆円を越える保護費は抑制されるが、弱者を切り捨て見殺しにしてまで、日本を強い国にしたいのであろうか。

 「就労や住宅などの相談ができる窓口を全国に設ける」ことも良いことだと思うが、話を聞くだけで、実際に就労や住宅を斡旋することができなければ、単なるパフォーマンス、税金の無駄遣いに終わってしまう。
 景気対策と称して、多額の公共事業を行うのであれば、高齢者や保証人のない人、定職のない人でも居住できる住宅の確保ということも政策として行って良いと思う。

 「本当に生活保護が必要な人」とは、働く意志や能力、さらには多少の収入があっても、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことができない人達のことである。

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働く意欲を失わせない生活保護へ改革を
【2013/1/17 日経新聞】

 厚生労働省が2013年度から生活保護の支給水準を引き下げる方向で与党と本格調整に入った。自民党も10%減額を衆院選で公約しており、具体的な引き下げ幅は13年度予算編成のなかで月内にも決定される見通しだ。

 引き下げが検討されているのは生活保護費全体の約35%を占める食費や光熱・水道費などの基準額だ。同省の検証結果では、現在支給されている基準額は保護を受けていない一般の低所得世帯の生活費に比べて、夫婦と子供2人の4人世帯で月約2万7千円(14.2%)多かった。

 支給水準の引き下げには生活困窮者の支援団体などからの反対が強い。だが、高齢の受給者などへの影響を配慮しつつ、働き盛りの受給者への支給額を適正な水準に見直すことは急務だ。保護を受けて暮らすより、働く方が損になる仕組みがある限り、働ける受給者の自立が進まないからだ。

 長引く不況で生活保護の受給者は今や213万人を超え、12年度の給付総額は3兆7千億円に上る見込みだ。働けるのに受給している人はこのうち約40万人と推定される。就職して生活保護から脱した人はごくわずかだ。

 重要なのは、生活保護を受けている人が就労意欲を持てる仕組みを整えることだ。最低賃金で働く人の手取り収入が保護の支給水準を下回る地域では、支給額の引き下げがこの逆転現象の解消にもつながる。受給者が働く意欲を持ちやすくなる。

 本当に生活保護が必要な人だけが受給できる仕組みにすることで、制度の持続性が高まる。

 保護費全体のほぼ半分を占める医療費の抑制にも取り組まなければならない。受給者は病院窓口での自己負担がないが、一部でも負担するようになれば病院側の意識も変わり、過剰な投薬などに歯止めがかかるはずだ。

 支給水準の見直しとあわせて厚労省が示した生活困窮者対策案には、生活保護を受けていない人でも、就労や住宅などの相談ができる窓口を全国に設ける施策が盛り込まれた。

 雇用情勢が厳しいなかで不安定な立場の非正規労働者として働く人は多い。病気やけがをきっかけに職を失い、生活保護を申請する例も少なくない。早い段階でこうした人たちの相談にのる支援策は保護に頼る人を減らすうえで効果があるだろう。