口蹄疫対策の見直しを考えるべき時期 | 臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言

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心に移り行くよしなしごとをそこはかとなく書き連ねています。

 昨年の新型インフルエンザ騒動では、当初、定められていたガイドラインやマニュアルを画一的に全国に適用したことが間違いであったと批判されているが、今回の九州、宮崎県の口蹄疫騒動では、ガイドラインどおり感染牛の殺処分が徹底して行われており、貴重な種牛も含めて、1万頭以上の牛が殺される予定となっている。

 しかし、そもそも口蹄疫は、人にとっても、牛にとっても、それほど危険な病気ではない。人はもちろん、牛でさえも、口蹄疫で死ぬことは滅多にない。
 乳牛であれば、乳の出が悪くなったり、肉牛であれば、肥育が遅れたりといった経済的な損失は少なくないが、口蹄疫が蔓延しても、牛が死ぬわけではないので、宮崎牛が全滅するというようなことは決して起こらない。
 ところが、このままでは、口蹄疫ではなく、口蹄疫対策によって、宮崎牛が絶滅しかねないという本末転倒のような状況に陥っている。

 100頭の牛を感染から守るために、感染した牛1頭を殺すというようなことは、許されるかもしれないが、1万頭を遥かに超えて、種牛まで含めて10万頭近い牛を殺してまで、一体、何を守るというのであろうか。
 国民と国土を守るために戦争を始めて、結果とてして、数百万の国民を死なせ、国土の多くを焦土と化してしまったという国があったが、今回の口蹄疫騒動は、それに似ている。

 目的と手段を見誤り、牛を守るという本来の目的を忘れて、牛を殺すという手段を完遂することに狂奔しているように思える。
 そろそろ、冷静に考えるべき時期ではないだろうか。

 それにしても、人間にとって、過去の過ちに学ぶということは、なかなか難しいことのようである。


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口蹄疫:「最大の防御」でも感染 「宮崎牛」種牛を殺処分へ 「次世代育成に10年」
【2010年5月17日 毎日新聞】

 宮崎県で猛威をふるう口蹄疫(こうていえき)ウイルスが16日、高級牛ブランド「宮崎牛」の品種改良の中枢を直撃した。県家畜改良事業団(高鍋町)での感染確認。県は口蹄疫疑いの種牛49頭を殺処分する。同日夜には事業団に隣接する県立農業大学校を含む計10カ所でも新たに牛と豚の感染疑いが確認され、殺処分対象は8万5723頭に拡大した。東国原英夫知事は同日、宮崎入りした平野博文官房長官に「もう一歩踏み込んだ新たな防疫対策を講じなければ」と、国のさらなる支援の必要性を訴えた。
 「事業団の根幹であり、牛舎で消毒し最大の防御をしたのに、残念でならない。要である種牛がこのような事態になり、誠に申し訳ない」。16日未明、県庁で記者会見した高島俊一・県農政水産部長は頭を下げた。
 事業団は先月21日に川南町で2例目が発生した後、半径10キロの移動制限区域に入り、種牛と肥育牛の牛舎を「別農場」扱いして管理者も分けた。今回の感染確認は肥育牛だったが、家畜伝染病予防法に基づき、種牛を含む全頭に感染の疑いがあるとみなされた。県は種牛を残せるよう国と協議したが、認められなかった。
 事業団は73年、種牛を集中管理する肉牛改良の拠点として発足。一般的に、農家で飼育され、市場に流通している子牛のほぼすべてが、冷凍精液を雌に人工授精して生まれる。その精液を年間約15万本供給するのが事業団。質の高い牛肉の需要増加とともに、種牛の改良も重視されてきた。
 県の06年度の黒毛和種の子牛の出荷頭数は約7万頭で、約半数が県外に販売される。事業団の種牛は宮崎牛のみならず、全国での肉牛生産に欠かせない。
 県内で流通する冷凍精液の約9割をまかなう「福之国」「勝平正」などエース級の種牛6頭は、県が事前に「避難」させたことで、辛うじて生かされることになった。だが、次世代の種牛開発には5~10年の期間を要する。県内の肥育業者は「被害は甚大というほか言葉はない。結果的に危機管理が不足していた」と声を落とした。
 県庁で東国原知事と面談した平野長官は、県内に設けられた消毒ポイントで一般車両の消毒がされていないことに触れ「緻密(ちみつ)な防疫態勢が必要だ」と述べた。同席した発生地の首長らは、殺処分が追いつかない現状や農家の窮状を説明。「このままでは町の畜産が壊滅してしまう」と訴えた。
 ◇人には影響なし
 口蹄疫は人には感染せず、仮に感染した肉を食べても人体に影響はないとされる。感染した肉が市場に出回ることもない。だが、ウイルスの感染力が強いことに加え、現時点では有効ため、家畜伝染病予防法は、感染が疑われる牛や豚だけでなく、一緒に飼育されている全頭を殺処分するよう定めている。農林水産省によると、まん延を防ぐためには潜伏期間を考慮し、仮に症状がなくても疑似患畜とみなすしかないという。