世界の終わりと中古レコードワンダーランド | パーティが終わる前に

パーティが終わる前に

見上げた空に
光る月しずくを受けて

あなたのこと
思い出して
遠くなる

その店は、比較的駅に近いエリアにあったが


メイン通りから1本入った目につきにくい場所に位置していた。


そのため、長い間不覚にも僕はその店の存在を知らずにいた。


あのあたりに中古レコード店がある、と人から聞いたのは


かれこれ3年と数か月前のことだったろうか。


その後、はっきりとした場所がわからなかったため


訪れてはいなかったのだが、


ある日その近くの原価酒場で知り合いの送別会があり


その会に向かう道すがら、初めてその存在に気付いた。





ああ、、こんなところにあったのか!


店の名前はとくにないものの、


確かに『中古レコード専門店』、と出ている。


これぞ紛うかたなき中古レコード店、しかも"専門"の2文字付きだ!


こりゃあ期待できそうだ…





少し中をのぞいてみようかとも思ったが、


送別会の時間までもう5分足らず…。


いったん店内に入ってしまえば、30分や1時間はあっという間だ。


まあいいや、場所はわかったんだし、あとで時間のある時にゆっくり来よう

と思った僕は、後ろ髪を引かれる思いで酒場に向かったのだった。






そしてその数日後、


あの出来事が起こった。




水も


電気も止まり、


毎日食料の調達や


ガソリンの補充に苦心する日々。


仕事にもどこにも行けず、


そのくせ1日の終わるのが


やけに早く感じられたなあ。


(なにせ夜は寝るしかなかったし…)






2~3か月が過ぎ、なにやかにやがようやく落ち着いてきたころ


ふとあの店のことを思い出し、僕は再びあの場所を訪れてみた。


しかし、その店の引き戸には鍵がかけられ、いくら引いても開くことは無かった。


今日はたまたま定休日か何かだったのかな、と思い


日を替えて行ってみたが、結果は同じだった…。


あくまで推測だが、どうやらあの日を境に


その店はもうずっと、誰かを招き入れることはやめてしまったようだった。


(レコードが割れてしまったのか、店内がめちゃくちゃで修復が大変なのか


あるいは店主の方に何か事情があったのか、その辺りはわからないけれど…)






僕は若干の後悔とともに、


あの日のことを振り返った。


少々遅れても良いから、


あの時に入っておけば良かったかな…。


あの夜たしかに店内には明かりがともり、


たくさんのレコードたちが、


訪れるひとを待っていたのだ。








一度も足を踏み入れることの無かった、町の片隅のワンダーランド…。