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「ちょっと…誰よ?」
聡美が眉を顰める。
「え?いや、マスターだろ」
「それはわかってるわよ。女の方」
「あ、そっち?」
なかなか色っぽい大人の女性だ。
「彼女じゃないの?」
サラッと言うと、聡美がじとっと俺を睨む。
「なに?」
「…別に」
聡美はちょっと膨れっ面をして頬杖をついた。出口に向かって歩くふたりを目で追っている。
「こらこら、あんま見ない」
と苦笑して聡美を嗜める。
「あ!ちょっと待って。支払いしてるの、女の方よ!」
「へーぇ」
「どういう状況かしら」
「マスターの誕生日とか」
「今日じゃないわ」
「即答かよ。ってか、マスターの誕生日知ってんの?」
「7月24日」
「聞いてねーし」
俺はそっぽを向いた。なんかムカつくな。
聡美はまだ二人を目で追いながら、
「デートじゃなくて、仕事かも」
と呟いた。
「フッ。どんな仕事相手と個室でフルコース?」
「女社長」
俺は腕を組んで頷いた。
「なるほど」
「マスターの腕を見込んで引き抜きとか?どっかのバーとかレストランとか…あ!このホテルの社長だったりして。うちのバーで働きませんか?みたいな」
「フッ。想像力たくましいな」
「出て行くわ」
俺も後ろを振り返った。昌さんはスマートに女性をエスコートしている。
「デートだろ、やっぱ」
「わからないわよ」
はいはい。わかった。聡美はデートにしたくねーんだな。
「あのね、聡美…」
俺は肘をついて顔の前で手を組み、聡美をじっと見た。
「デートかそうじゃないかは、簡単にわかる」
「どうやって?」
「この後、エレベーターで上に行けば…」
と天井を指差す。
「デートだ」
「つまり?」
「部屋を取ってる」
「なるほど」
聡美はちょっと思案顔をすると、
「じゃ、確かめましょう」
と、席を立った。
「は?」
「はやく!見失っちゃう」
「え?追っかけるつもりかよ」
「いいから、早く!」