あぶない年越し 8 あの夜と同じ | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

※本日4話目!












ったく、やり納め真っ最中なんじゃねーかよっ」



俺は携帯を切って、ベッドに放り投げた。



「ああ…なんかムラムラしてきちゃったなぁ…もうっ!」




千帆と桃は、以前あの家をシェルターにしてたから、聡美さんならひょっとして、桃を泊めてくれるかもしれないと思ったんだけど…。




「いや、そりゃ俺だっていきなり大晦日に泊めろってのもムリな話かと思ったよ?でも…つーか、あの調子じゃやり納めから初エッチまで、ベッドの上でカウントダウンじゃねーか。え?高校生の男子がいるって言ってなかった?バレねーのかよ?」




「条くん、どうしたの?」




「わっ⁇」




見ると、桃が寝室のドアを開けて立っていた。



「何だよ?入って来んなって」




「だって条くん戻って来ないんだもん」




「ああ…。もういいよ。終わり。俺、寝るから。お前も寝ろ」




「ええー⁈大晦日なのにもう寝るとかあり得ないでしょ!」




「うるせーよっ」




「何イライラしてんの?」



イライラじゃねー。ムラムラだバカやろう。



「あ!もしかして彼女に電話してたの?私、邪魔しちゃった?」




「いや…」



むしろ邪魔したのは俺の方。宝と聡美さんの…エッチ…ああ!もう!




「条くん、あのさ…彼女に、私を泊めること…言ってるの?」



ドキッ!



言ってねーよ。言ってねーのに泊めちゃったらなんかまずいじゃん。




「あ?…ああ」



言ってないけど、言ってることにしよう。



「いいって?」




「い、いいに決まってんじゃん。俺にとっては娘みたいなもんだってわかってっから」




「彼女、心配してないんだ」




「なんの心配?」




「条くんが心配してるような、心配」



ハッと俺は笑って、ポケットに手を入れて俯いた。



桃が部屋に入って、後ろ手にドアを閉めた。




パタン…。




俺はピクリと眉を上げる。



廊下の明かりが差し込まなくなり、寝室は間接照明だけの明るさになった。



薄暗い中で、千帆に似た桃がゆっくり近づいてくる。




入ってくんなって…だから…」





「…どうして?娘みたいなもんなのに?」




眉を曇らせた悲しげな顔が千帆と重なる。




「…娘が父親の部屋に入っちゃダメなの?」




そばに来たら、ふわっと千帆の匂いがして、懐かしさに胸が熱くなった。




「お前




千帆の匂いだ




すると、桃が俺の鼻の前に手をかざした。




「これ…?ママが使ってたボディクリーム…」




ああ…あの夜と同じだ。




「このせいで、あの時、条くんが私をママだと勘違いしたんだったよね?」




……




でも、私、条くんを騙すつもりでつけたんじゃないよ?あの時…私、ママの夢を見たの」




桃がそっと俺の二の腕に触れた。




「これをつけたら、ああママだ!って思って、懐かしくて嬉しくて。条くんはあの頃私の前で寂しいとか言わなかったじゃない?」




ああ」




「だけど、ほんとは寂しかったんでしょ?夢でもいいから、ママに会いたいって思わなかった?」




そう言われたら、千帆を失った悲しみが蘇ってきて…




無性に千帆に会いたくなった。





俺はあの頃、確かに、千帆と生きてく覚悟をしていた。もっとしてやりたいこともあった。



それなのに千帆は俺を置いて、俺と桃を置いて、逝ってしまった…。





すると、いきなり桃がガバッと抱きついて来た。




「条くんっ!」



反射的に抱きしめそうになって、ハッとして、手を引っ込めた。




「私、あの時、条くんを慰めたかったのっ!ママになって条くんを慰めてあげたかったの!」




気持ちが昂って泣き出した桃を、突き放すことはできなかった。




そうか





俺は桃の背中にそっと手を回した。






ありがとな」






ポンポンと背中を叩いてやる。






「ありがとう。お前も、寂しかったな」






千帆の忘れ形見。



俺の娘みたいな桃。




桃への愛しさが込み上げて来て、




俺は桃を抱きしめて、




その長く柔らかな髪を撫でた。