※本日5話目です!
静かな部屋で黙って桃を抱きしめ、髪を撫で続ける。
時計の針はあと小一時間もすれば今年が終わることを示していた。
千帆を失って初めての年越しを、桜とではなく、桃と過ごしている。
それはそれで、自然な気もした。
深い悲しみには、それを分かち合える相手が必要だから。
千帆を失った悲しみは、桃としか分かち合えない。
寂しさを持ち寄って慰め合えば、また明日から笑ってやっていける。桃には笑ってて欲しい。
「泣くなよ…もう。…な?」
「だって…条くんに彼女がいるなんて、寂しいんだもん。…寂しいよぅ…条くん」
桃はまた俺にしがみついて泣きじゃくった。
「条くんが…っ…遠い人になっちゃうよ。私…ひとりぼっちに…っ…なっちゃう」
まるで小さい子どもみたいだ。
「…バカ…」
俺は桃をギュッと抱きしめてやった。
「ひとりぼっちになんかならねーよ。彼女がいても、お前は特別だ。俺はお前の親父がわりだと思ってるし、桜もそれはわかってる」
「条くん…」
顔を上げて俺を見つめる桃の熱い視線。
こんなふうに見つめられて、桃に想われてることに気づかない男はいないだろう。
ちょっと真剣過ぎて、こっちもはぐらかしようがない。
そういう玉砕覚悟の一途な感じが若いって言うか、眩しいって言うか…
目の前にある涙に濡れた桃の瞳が、俺の唇をとらえる。
ああ…。
千帆にしろ、桜にしろ、桃にしろ…
女っていう生き物は、
どうしてこんなに愛しいんだろう。
どうしてこんなに俺の心を揺さぶるんだろう。
俺にできることなら、なんだってしてやりたくなる。
なんだって…。
桃がそっと目を閉じる。
震える睫毛。上気した頬。赤い唇。
「…条くん…キス…して…。あの時みたいに…」
俺は顔を斜めにして、親指でそっと桃の唇に触れた。
「桃…」