スイートルーム争奪戦 32 励まし | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

*本日2話目の更新です。











「ラムちゃん恋人は?」



別れました。3年前、日本に来るときに」



そう」



廊下の窓から中庭のきれいなイルミネーションが見えた。


ラムちゃんは手すりに手を置き、窓の外を見た。



「大好きでした。でも、私、自分の夢を取りました。彼より、自分の夢を取りました」



ラムちゃんが泣きそうな顔になる。


大好きな彼を捨てて夢を追って日本に来たのに、女優として芽が出ない。


だから、こんなところで、抱かれたい男を選ぶとかいうようなくだらない仕事をしている。



「ごめんねなんか。こんなつまんない仕事、させちゃってさ。芝居の稽古でもしてる方がマシだよね?」




「そんなこと言わないで下さい。仕事は仕事です。どんな仕事も勉強。女優としての経験になる」




「そっか




「どんな仕事も、一生懸命やります。だけど時々、自信がなくなります。ベトナムにいて、彼と結婚した方が幸せだったかなぁと、思います」




「彼とは会ってないの?連絡を取ったりとか




「会ってません。でも、時々、メールくれます。今は友達。『頑張れ』ってメールくれます。『頑張れ』って、ベトナムの空港で私に手を振ってくれたあの時と同じ。彼、変わらない。『ラム、頑張れ』って、いつも励ましてくれる




ラムちゃんの頬を涙が伝った。




「そっか。今も彼はラムちゃんを応援してくれてるんだね」



「はい。私、彼を捨てたのに彼は私を悪く言わない」



「彼は今も好きなんだね。ラムちゃんのこと」



「今も?」



「うん」



「友達としてじゃなく?」



「たぶん」





「じゃあ…ほんとは私に帰って来て欲しいと思ってる?」





「うーん…それはどうかな。彼はラムちゃんが夢を掴むのを望んでると思うよ?だから、会いたいとは思っても、帰って来て欲しいとは思ってないかもね」




私も、彼に会いたい。正直、会いたいとか、もう国に帰りたいと思う時、たくさんあります。でも、彼が頑張れって言ってくれるから嬉しい気持ちたくさん。でもだから、帰れない」




そっかぁ。そうだよね。彼に言われると、頑張らなきゃって思っちゃうよねぇ。彼を捨てて来ちゃったわけだから。でもね?ラムちゃん」




手すりに腕を乗せて、隣のラムちゃんを見る。




「彼が『頑張れ!ラム』って送り出してくれたのは、ラムちゃんの夢を守りたかったからだと思うんだよね。自分のことよりも、ラムちゃんの夢をね」




……




「それだけラムちゃんのことが大事だったんだよ。ラムちゃんを愛してたんだ。だから、彼にとって、ラムちゃんの夢も大事だし守ってあげたい。


でも、彼が一番守りたいのはラムちゃん自身なんだよ」




「私自身?」




「うん。だから、ラムちゃんの夢も応援するけど、ラムちゃんがそれで無理して辛くなったりラムちゃんらしさを失ったりしちゃうのは、彼の望むところじゃない。


『俺の励ましで頑張れるうちは頑張れ。でも、頑張れなくなったらいつでも俺のところに帰って来い』


彼の『頑張れ』はきっとそういう意味だと思うよ?」






「井ノ原さん




ラムちゃんはコテンと俺の肩に額を預け、泣いた。





「よしよし」



俺はラムちゃんの頭を撫でた。





「わたしもうちょっと、頑張ります」




ラムちゃんが涙声でそう言った。





「そっか。うん。頑張れ。でも、無理すんな」





俺はラムちゃんの肩をポンポンと優しく叩いた。





やがて泣き止んだラムちゃんが顔を上げ、俺たちは微笑み合った。




「そろそろ、みんなのとこ、戻ろうか」