東京に戻り、岬は仕事を始めるまでの間、駿作を預からせてほしいと岡田に申し出た。
まだ仕事を始めるほどのパワーは出ない。が、ひとりでいても三宅のことを思い出しては悲しい気持ちになるだけだ。
それなら、保育園の後、岡田が仕事から帰るまでの間、岬の部屋で駿作を預かる。そうすれば、適度な張り合いもできるし、岡田に恩返しもできる。
そんなふうに岬は考えた。
そして、岡田はその申し出を受け入れた。
病院で主治医から駿作が実の息子であるかどうか確かめるためにDNA鑑定を受けることを提案されたその日、岡田は重い足取りで岬のマンションに向かった。
「おかえりなさい」
「…ただいま」
やはりこのやり取りに岡田はまだ慣れなかった。
岬は保育士として迎えに来た保護者にそう言っているだけだとわかっていても、自分の岬への気持ちがはっきりしているからこそ、変に意識してしまう。
「あの…駿ちゃんついさっき寝てしまったんです」
「…そう」
岡田の迎えが遅い時には、岬は駿作と一緒に晩ご飯を済ませ、岡田の分を保存容器に詰めて渡してくれた。
岡田はいつも部屋には上がらず、すぐに駿作を連れて帰ることにしていたからだ。
しかし、今日はたった今寝入ってしまった駿作を岬はあまり起こしたくなさそうだし、だとすれば、岡田が部屋に上がって岬のベッドから駿作を抱き起こさねばならない。
玄関先で岡田が躊躇っていると、
「あの…上がってください…」
と岬が言った。
「うん。起こして連れて帰るよ」
「あ…っていうか…」
「え?」
「あの…実は今日駿ちゃんおでんをバクバク食べて、それでお腹いっぱいになって眠くなっちゃったみたいで…」
「ああ、そうなんだ」
「よかったら、岡田さんもうちで食べて行かない?」
「……」
「すぐに起こすのはなんだか可哀想だし…」
と言って岬は目を伏せた。