もともと、嫌いになって別れた仲ではない。お互いに惹かれあっていたのに、別れてしまったのだ。
岬はその後、三宅に再会し、三宅を愛した。それは事実だが、三宅を亡くした今、岬はまた岡田に強く惹かれていくのを自覚せずにはいられなかった。
岡田の頼もしさ、優しさ。それに、岬に対する愛情。それらが、まるで薬のように、傷ついた岬の心に染み込んでいく。
妻とは別れられないから、岬とは一緒になれない。だから別れて欲しい。
かつてそう言われて、岡田を諦めた。だが、あの時の自分の気持ちはどうだったか。
自分はただ岡田を愛したいだけではなかったか。
たとえ妻と別れられなくても、岬と一緒になる気がなくとも、それでも岬は岡田を愛したかった。
そして今、あの時と同じように岡田は岬に愛情を抱いている。
そしてまた、あの時と同じように岬と距離を置こうとしている。
岬には、三宅と愛し合った日々を思って涙にくれる夜があった。三宅の温もりにはもう二度と触れることができないと涙が溢れて仕方ない夜があった。
そんなとき、岡田が突然現れて強く自分を抱きしめてくれはしないかと、岡田にすがりたくてたまらなくなるのだった。
妻がいようとかまわない。一緒になれなくともかまわない。
そんな思いを岡田にぶつけたら、岡田はどうするだろうか。
やはり、岡田を苦しめてしまうだけなのだろうか…。
東京に戻ってからというもの、三宅を失った悲しみが、岬に岡田を求めさせ、そして、秋の深まりとともに、岬は岡田への思いを募らせていた。
だから、つい岬から部屋に上がることを勧めてしまった。
岬は、久しぶりに岡田と何でもない時間をふたりきりで過ごしたかった。岡田の甘い笑顔や優しい声や、寛いだ姿に触れたかった。
岡田は、少し戸惑っていたが、
「じゃあ…そうしようかな」
と言って岬の部屋に上がった。
岬は岡田のジャケットを預かり、ハンガーにかけた。