GUILTY 45 新しい土地 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「健ちゃん、じゃあ、私行くね」


「あ、岬、待って」


上半身裸でベッドに起き上がった三宅が両手を広げる。

岬は笑いながら駆け寄って、三宅とハグを交わす。


「行ってらっしゃい。岬。はい、健ちゃんパワー」


ギュムゥ…ッ!と、岬を抱きしめて、チュッチュッとキスをする。


「ふふ。健ちゃんも、今日面接でしょ?」


「うん。頑張って来るよ。面接、苦手だけど」


「大丈夫!健ちゃんイケメンだもん」


「顔で採用されるわけじゃないからさ」


「あ。それって自分でイケメンって認めてる」


三宅は頭の後ろに手をやって照れ笑いした。


「ふふ。健ちゃんの正直なとこ、好きよ。じゃあね。行ってきます」


ふたりは東京を離れ、新しい土地で小さなアパートを借りて暮らしていた。


岬はすぐに保育所で働き出し、三宅も仕事を探していた。今日は、バーの面接に行くことになっていた。


黒のスーツを着て、身嗜みを整え、夕暮れの繁華街に出かけた。


三宅は、地下にある小さなバーのドアをくぐった。なかなか落ち着いたいい店だった。


「失礼します」


カウンターの向こうに背の高い男がいた。


「ああ…」


男はグラスを拭く手を止めて、顔を上げた。


「面接?」


「はい。三宅と申します。よろしくお願いします」


「施設に入ってた子だよね?」


ドキッとした。その手の偏見や差別にはさんざん苦い思い出がある。



「あ、俺、この店のマスター。坂本です。よろしく」


差し出された手を取ると、力強く握られた。


「俺も施設に入ってたのよ」


「え?」


「いつこっちに来たの?」


「あ、つい…一週間ぐらい、前」


「ははっ。俺もさ、東京出身」


「あ、だからこっちの言葉じゃないんですね?」


「そうそう。あ、座って」


「失礼します」


三宅はカウンターのスツールに腰かけた。


「18歳になったらさ、出なきゃいけないじゃん」


施設の話だ。


「あ、はい」


「大変じゃなかった?」


「あ、まあ…はい。そうですね」


少し頭がぼうっとしてくる。施設を出てからどんなふうだったか…あまりいい記憶はないような気がする。

施設を出てから…じゃない。それまでも…岬に出会うまで、ろくな人生じゃなかった。


「若く見えるね」


「あ、僕ですか?」


「うん。君以外、いないじゃん」


坂本はハハッと笑った。


三宅は笑わなかった。


坂本は履歴書を見ながら、


「仕事が長続きしないのは、どうして?」


と聞いた。


「…人付き合いが苦手なんです」


「どうして?」


「僕…ぼうっとしてて…人の話をあまり聞いてなかったりするんで…」


「それは、よくないな」


「…はい」


「わかってるなら、直せばいいじゃん」


「…はい」


「君のいいところは?」


「…正直…で、たぶんわりと…真面目…な方だと思います。ぼうっとしてる時以外は」


「ハハ。真面目が一番だよ。俺も若い頃はやんちゃしたけどね。…いや、あれはあれで大真面目に暴れてたのかな」


坂本はフッと笑った。


「何か作れる?」


「はい。…氷」


「え?」


「丸い氷をきれいに作れます」


「ああ。氷」


坂本は拳を作って口元に持っていくと、上目遣いで三宅を見た。


「いや、俺はカクテルのこと聞いたんだけどね」



「ああ…そっか。そうですね。えっと…多分一通りはできると思います」


「そう」


「美味しいかどうかはわかりませんけど」


三宅は、僕お酒飲めないんで、と小さく付け加えた。


酒も飲めないこんな不器用そうな男が…と坂本は履歴書を眺めた。ホストもやっていたのか。


黙って俯いている三宅は、確かにきれいな顔立ちをしていた。いい体もしてそうだ。


愛想のよくない、口下手な男。しかし、どこか影のある危うい印象が女を惹きつけたのだろう。


「ホストの仕事も、人間関係で辞めたの?」


「いえ。それは、必要なお金が貯まったので」


「ああ」


「結構稼げたんだ」


「まあ…はい」


「将来は…どうしようと思ってるの?」


「え?」


三宅は目を丸くして坂本を見た。


「バーテンになりたいの?」


「……」


「自分の店を持ちたいとか」


「いや…」


三宅は戸惑って目を泳がせた。


「将来とか…あまり…考えたこと…」


坂本は眉をひそめて三宅を見た。


将来?


三宅の脳裏に、岬の笑顔が浮かんだ。しかし、岬との幸せな未来を想像しそうになると、きつく目を閉じて、頭を振った。


頭が痛い。何も考えられない。何も。


「何も…」


「…え?」


「将来のことは…何も…考えてません」


坂本はその言葉の意味を、今を生きるのに精一杯なのだと解釈した。


それだけ、この男は、生き辛さを抱えている。施設を出て苦労した自分と重なった。


「よし。決まりだ。明日からうちで働いてもらおう。よろしくな」