GUILTY 44 別れ | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

ふたりは玄関と階段の途中で、しばらく黙って見つめあっていた。


すると、部屋の中から、


「岬?」


という男の声が聞こえた。


「あ…」


岬は部屋の中に向かって、


「ごめん。ちょっと、下の階の人に挨拶してくる」


と言うと、急いで階段を下りてきた。


「…あっ!」


階段を踏み外して転びそうになった岬の腰に、岡田は素早く手を伸ばした。

ガッと腰を抱き上げられるような格好になって、岬は岡田を見下ろした。

岬を抱いたまま、岡田が岬を見上げる。岡田の顔が岬の胸の辺りにあった。


「大丈夫?」


「あ…ありがとう」


ふたりは体を離した。岬の胸は高鳴っていた。岡田も、同じだった。


「引っ越すの?」


「ああ…うん。そう」


「遠く?」


「うん。…実家」


「四国…だっけ?」


「うん。愛媛」


「そうなんだ」


岡田は動揺しているのを悟られまいと、俯いた。


「保育園は…?」


「辞めました」


「そう…だよね。あの…これ…」



岡田はポケットから駿作の手紙を取り出した。


「よかった。ギリギリ間に合って」


「…駿ちゃん…?」


「大阪から送って来たんだ」


「…そう」


岬は両手で封筒を持って涙ぐんだ。



「…寂しがるよ」


岬は頷いて、鼻をすすった。それから、シールを剥がして、封筒から便箋を取り出した。


「ふふ…」


手紙を読んで、岬は泣き笑いした。


岡田は岬の笑顔に気持ちが温かくなった。


「なんて書いてある?」


「ふふ…。可愛い」


「…ん?」


額を突き合わせるようにして、駿作の手紙を覗き込んだ。



みさきせんせい
だいすき

ぼくのこと
わすれてない?

ぜったいわすれないでね

しゅんさく

パパのことも
わすれないでね

しゅんさく




「ふふ…。忘れるわけないのに…」


母親が自分のことを忘れていると思っているから駿作は心配なのだ。そう思うと、岡田は胸が痛んだ。


「あの…ごめんなさい。返事書きたいから…実家の住所、教えてもらってもいいですか?」


「ああ」


岡田はペンを取り出し、封筒に住所を書きつけた。


「よかった。間に合って」


それは、駿作の手紙のことなのか、それとも自分が岬に会えたことを言っているのか…。


「ありがとうございました。私、忘れません」


それは、駿作のことを言っているのか、それとも岡田のことを言っているのか…。


ふたりには、相手の気持ちは量りかねた。


が、どちらも身を引き裂かれるような思いだった。



「ありがとう」


岡田は微笑んだ。それから、階段の上の開けっ放しのドアに素早く目をやって誰もいないのを確かめると、いきなり岬の腰を抱き寄せた。



「…っ…ん…!」


ふたりの唇が重なった。


岡田は片手で岬の腰を抱き、もう片方の手で岬の後頭部を掴んで引き寄せた。舌を入れて強く吸った。岬も、それに応えた。


唇を離すと、岬の熱い眼差しに出会った。



このまま岬を奪って、誰も知らない場所にふたりで逃げてしまいたかった。



と、その時、


「…岬?」


と、さっきと同じ声がして、玄関に黒い人影が見えた。逆光でこちらからは顔は見えない。


どこかで、聞いたことのある声だ。…気のせいか。



「じゃ、岡田さん。…元気で。早く犯人が捕まって、駿ちゃんに会えるといいですね。…でも、あまり無理しないで」


「うん。ありがとう。岬も…元気で」


「さよなら」


「さよなら」


岡田は踵を返して、階段を駆け下りた。


岬の部屋にいたのは、引っ越しを手伝いに来た友達だろうか。それとも、新しい彼氏だろうか。


考えてから、岡田は苦笑した。我ながら未練がましい。


どっちだっていいじゃないか。


どっちだって…。


俺には、もう関係ないことだ。