GUILTY 43 岡田の苦悩 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「怒らないで。ごめんなさい。許して」


和佳子は見舞いに来た岡田にいきなり取り付いてそう言った。


「怒ってないよ。何言ってるの?」


岡田は微笑んで、妻の手を優しく握った。


「痛い!」


「え?」


決して強くは握らなかったのに…。


そこへ、主治医が入って来た。


「あ、先生、どうもお世話になってます」


「痛い!先生、准くんが…怖い」


「どうされました?」


主治医は和佳子に向き直った。


「いや…僕は何も…」


「許してくれないんです!准くんが…私が謝ってるのに…っ…ずっと怒って…」


「いや、ちょっと待って…」


岡田が苦笑すると、和佳子が岡田を指差し、主治医に言った。


「ほら…笑ってるでしょう?でもね、本当は怒ってるんです」


妻は嘘をついている罪人を訴えるようにして主治医に寄り添った。その目は真剣だ。

いったい、妻の目に自分はどう映っているのか…。本当は怒ってる?いったい何に対して?


「怒ってないよ」


なるべく落ち着いて対応しようと、岡田は妻を宥めるように言った。



「怒ってる!」


激しい口調で言い切られて、思わず怒ってるのはそっちじゃないかと言いたくなった。

が、それを抑えて目を閉じ、首を静かに横に振った。


「怒ってない」


すると突然、和佳子が叫んだ。


「怒ってるわよ!本当のこと言いなさいよ!あなた本当の気持ち隠してるんでしょ⁈わかってるのよ!」



「ハッ。本当の気持ちって…なんだよ…」



岡田は笑いながら、片手で額を覆った。


昼夜問わず走り回っての捜査。三宅が見つからないことのプレッシャー。それを押してなお、妻の見舞いに来ているのに、この仕打ちはなんだ?




「岡田さん…」


主治医が不安げに岡田を見た。



岡田はパッと手を離すと、


「本当の気持ちってなんだよっ⁈いいかげんにしてくれっ!もう、うんざりだっ!」


と叫んだ。


「岡田さんっ!」


病室のドアを開けて出て行くと、後ろから和佳子の笑い声が聞こえた。


「岡田さんっ!」


主治医が追いかけて来る。


「待ってください!落ち着いて!」


岡田は廊下で立ち止まった。


「先生…」


岡田は目を閉じてひとつ息を吐いた。しかし、感情的になるのを抑えられなかった。


「あれで快方に向かってるんですか?…もう僕は、どうすればいいかわからないっ…!もうずっと…妻の口から…っ…」


岡田は涙を堪えて、上を向いた。



「駿作の名前が…出て来ない」


声が震えた。



「岡田さん…」



岡田は上着のポケットから封筒を取り出した。


「駿作には、ママはたくさん忘れてしまう病気で、駿作のことも覚えてないけど、でもだんだん良くなってるって…言ってるんです。そしたら、駿作が、ママに思い出してもらうんだって、これを大阪から送って来たんです」


主治医は広げた手紙を覗き込んだ。


手紙には、家族3人の絵と、ママ♡しゅんさく♡パパという字が書かれていた。表にも、裏にも、しゅんさく、しゅんさく、しゅんさく…とたくさん自分の名前が書き込まれていた。


「見せたいけど…怖くて…見せられません。なんで…っ…」


「岡田さん…私がお預かりしていいですか?この手紙」


岡田は目頭を押さえて、主治医に手紙を渡した。


「…すみません」


「折を見て、私の方から和佳子さんに見せてみます」


「お願いします」



「…岡田さん、よかったらカウンセリングの予約取って帰りませんか?もう長いこと受けてないでしょう?」


「いえ、時間がありません」


「…そうですか…」


「先生も、ご存知でしょう?まだ、未解決の事件が…」


「…でも…」


「すみません。妻の見舞いに来るのが精一杯で…とても自分がカウンセリングを受ける時間はありません」









岡田は病院を出ると、上着のポケットからさっき主治医に渡したのと同じ、可愛らしい封筒を取り出した。

それには、子供の字で、「みさきせんせいへ」と書いてあった。


それを眺めて、またポケットにしまうと、足早に岬のアパートに向かった。







アパートの前には、引っ越し屋のトラックが止まっていた。


岬の部屋のポストに投函しようと階段を上がると、引っ越し業者の人が荷物を運んで下りてきた。


「すみません」


「あ…すみません」


岡田は両手を上げて脇へ避けて立ち止まり、すれ違うとまた階段を上がった。


「え?」


そこで気がついた。岬の部屋のドアが開けっぱなしになっている。荷物は岬の部屋から運び出されているようだった。


玄関先に岬が出てきた。


「すみません。あと、奥の部屋に少し。それで全部です」


引っ越し屋に話していた岬がこちらに気づいた。


「あ…」


「…どうも…」


ふたりはぎこちなく会釈を交わした。