ピンクのハンカチ 2 宝VS聡美 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「おじさんはどうして自分のハンカチで汗を拭かなかったの?」


「ああ…」


准はTシャツの肩口でちょっと顔の汗を拭って、


「そうか」


「そうか、じゃないわよ。どうして生徒のハンカチを借りる必要があったのよ」


「…正確に言うと、借りたんじゃない」


「どういうこと?」


准はちょっと言いにくそうに、


「彼女が汗を拭いてくれたんだ」


と言った。准は私の方を見ない。


「あなたが自分で拭く前に?」


「うん。先を越された」


呆れた。


「いったいどういう状況⁇財前五郎かっ!」


「え?だれ?」

准が眉をひそめる。


私は空になった洗濯籠を持って、ズンズン食卓まで歩いて行った。

籠を床にバン、と置いて腰に手を当てる。



「財前五郎よ!白い巨塔のイケメン外科医!」


「ああ!あのドラマ?聡美が泣いて見てたやつ」


「そうよ。『汗!』『はい』ってやつよ」


私は手術中の執刀医の額を拭くマネをしてみせる。


「手術中の執刀医じゃあるまいに、一介の音楽教師が生徒に汗を拭いてもらうって、いったいどうやったら、そういう状況が生まれるわけ?」


「まあ、俺の汗がすごかったんだろ。見るに見かねて…」


「自分で拭きなさいよ」


「拭いてたよ」


「「Tシャツで」」


私たちは異口同音に言った。


私は准の前に座って両腕をテーブルにのせ、じっと准を見た。



准はチラッと私を見て、


「そんなにつっかかることないだろ」


って呟いた。


「なにっ?」


「なんでもない」


「つっかかってんじゃないわよ。引っかかってるだけ」


「聞こえてんじゃねーか」


手についたトーストの粉を払って、立ち上がり、カウンターにコーヒーを取りに行く。


「あたしもちょうだい」


ガタイのいい背中に声をかける。准はカップを二つ並べてコーヒーを注ぐ。


白いTシャツにジーンズ。夏休みだからってずいぶんラフな格好で出勤する。

昨日もこんな格好だった。生徒はギャップにときめいちゃうだろうな。おまけにハンカチの交換ですって?


「ねぇ…いつどんなタイミングで生徒に汗を拭いてもらったのよ」


准が振り向く。手には白いマグカップを二つ持っている。


カップをテーブルに置いて、椅子に座る。


「個人レッスン中」


「え?」


「朝イチだったから、まだエアコンがそんなに効いてなくて」


「個人レッスンって、ふたりきり?」


「個人レッスンだからね」


「准が言うと何の個人レッスン?って思っちゃうわ」


「ピアノしかねーだろっ」


「それで、『先生、汗が…』なんて言う生徒がいるんだ?」


汗を拭くマネをしようと伸ばした手を、准は笑って払いのけた。


「今みたいに避けなかったの?」


「…うん」


「生徒に拭かせたんだ」


「言い方」


「だってそうなんでしょ?」


「拭いて、く、れ、た、んだよ」


口ぶりから、准がいいかげんこの話題から解放されたがってるのは、すぐわかった。だから、引いた方がいいかもしれないとは思ったけど…


私の探究心が引っ込まない。

だって、相手は私が最も興味のある男なんだから。


「避けなかったのは、あなたがピアノを弾いてる最中だったから?」


マグカップが准の口元で一瞬止まった。その時を思い出すような目つきをして、それから、


「ああ。…手が離せなかった」


と言って目を伏せてコーヒーを飲んだ。


「へーぇ」

私もコーヒーを一口飲んだ。


マグカップをテーブルに置いて、


「怪しい…」


と呟く。


「怪しくないよ何も。相手は生徒だよ?」


「女子高生をたぶらかしちゃダメよ」


「たぶらかしてないって」


「ハンカチの交換なんて、何なの?それ。少女漫画?交換する必要なんてないわよ。准の汗つきのハンカチが欲しかったのよその子は」


「え?」


「まあ、その代わり宝先生のハンカチ貸してもらえたんだから、それはそれでよかったのかもしれないけど?」


「聡美…」


「なによ」


「まさかとは思うけどさ…」


「なんなのよ。ニヤニヤしちゃって」


「いや、やっぱいいや」


「言いかけてやめるとかなによ!余計気になるじゃない」


「いや、やめとく」


准は笑って首を振る。


「怒られそうだ」


「もう怒ってるわよ」


「怒ってるの?」


「いや…怒っては、ないけど…」


「だよね?ハンカチぐらいで怒るわけないよな?大の大人が」


試すように片眉を上げて私を見る。


「嫉妬だったら、可愛いけど」


「嫉妬⁇私が⁈女子高生に?」


「ほら、怒った」


准がふふふって笑った。


まあ…!女子高生たぶらかしといて、どっから出てくるのかしら?その余裕は。

ああ、面白くない。


「その子に言ってやりたいわね」


「なんて?」


「あなたの憧れの宝先生は、ただのど、エ、ロ、い、おじさんよ…って」


「おいおい」


「あなたが拭いたその汗は、ほんの1時間前に女とベッドで流した汗と同じなのよって」


「言うねぇ」


「だって事実よ」


私は眉を上げて准を見る。


昨日は朝から私を抱いて遅刻しそうになったから、私がバイクで送って行った。


その後、朝イチで個人レッスンしたってことね。



「短時間のうちに男から先生へと切り替えるところが、エロいって言うのよ」



「切り替えない方がエロいだろっ!」