個人レッスン 最終話 えこ贔屓 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「たとえば、えこ贔屓とか」


「えこ贔屓⁇」


先生がおうむ返しに言って目を丸くする。


「えこ贔屓かぁ〜」


って腕を組んでニヤニヤ笑う。


「えこ贔屓ねぇ…」


口元に手をやってあらぬ方を見る。



「もう!何回言うんですか?」



ふふっと笑って、片眉を上げる。


「もうしてるじゃない」


ソファを指差す。部屋を見回して、


「生徒入室禁止だよ?この部屋」


って微笑む。



「そ、そうですけど…」


私はむくっとソファに起き上がる。


「これは、えこ贔屓じゃなくて、緊急事態の対応っていうか…。だって、誰かが私みたいになったら、先生は同じように部屋に入れてくれるでしょ?お姫様抱っこして」


「まあ…そうだね」


「ほらほら!」

先生を指差して笑った。



それからしばらく先生と他愛のない話をした。静かな先生の部屋でふたりきりで時間を過ごす。なんて贅沢…。


そろそろ体調も戻ったし、氷嚢の氷も溶けた。もう帰れるけど…もう少し先生といたいな。



すると先生が、


「元気になったみたいだね」


って微笑んだ。


「歩けるようなら下まで送って行くけど?」


言いながら、私を見ないで氷嚢を片付け始めた。


あ。体調が戻ったら、いきなり一線引かれた感じ。この大人対応が憎らしくもあり、かっこよくもある。


「…もうちょっと休んで行ってもいいですか?」


シンクに立つ先生の背中に話しかける。


「いいけど、もうすぐ三年生がレッスンに来るよ?」


暗に帰れってことかな…これは。


「…やっぱり、もう大丈夫です。帰ります」


「そう」


先生が振り向いた。私はソファから立ち上がる。


「それ持ってっていいよ」


ポカリのことだ。


「ありがとうございます」


「ちゃんと水分補給して」


「はい」


先生が音楽室に続くドアを開ける。


「失礼しました」

私は音楽室に置いてあった鞄にポカリと譜面をしまった。


「ピアノは…?」


「そのままでいい」


先生の後について音楽室を出た。先生が音楽室の前のエレベーターのボタンを押した。


「三年生もコンクール前ですか?」


「ああ」


「またその子も倒れたりして…」


エレベーターのドアが開いて、一緒に乗り込む。


ふたりきりのエレベーター。


「それはないだろ。もうエアコンが効いてる。一番乗りでアンラッキーだったな」


先生が一階のボタンを押した。


「いえ。ラッキーでした」


しれっと言って、先生の様子を見る。

先生は何も言わずに階数表示を見つめている。


無視かぁ…。冷たい。ちょっと傷つくな。


すると、先生が、


「あ。ハンカチ」


と言った。


「ないと困るよね?」


「あ…はい。そうですね」


先生の汗つきハンカチ、返してくれるのかな。


「よかったら…代わりにこれ持ってく?」


先生がポケットからきれいにアイロンをかけた男物のハンカチを取り出した。


「今日はまだ一回も使ってない」


「え⁇い、いいんですか?」


「いいよ」


嬉し過ぎる!先生のハンカチ貸してくれるなんて!

感動して両手に持って眺めてたら、先生が、


「返してね?」


って笑った。


あは。見透かされてる。


「か、返しますよ!洗ってアイロンかけて返します!あ、でも、しばらく学校に来ないからすぐには返せませんけど」


「いつでもいいよ」


エレベーターが一階に着いた。


「先生、降りるんですか?」


「下足室まで行こうか」


「いいです。大丈夫です。またすぐレッスンあるんでしょ?」


「うん」


「このまま上がって下さい」


「大丈夫?」


「大丈夫です。先生、ありがとうございました。レッスンと氷嚢と…それから、これ…」


先生に借りたハンカチを見せた。



先生は横を向いてフッと笑った。




それからこっちを向いて片眉を上げた。



「内緒だぞ」


ってハンカチを指差す。


先生に借りたこと?



「は、はい」





「えこ贔屓だからな」




え?



めちゃくちゃカッコいい…先生の顔。



私に向かって軽く片手を上げた先生の姿を、エレベーターの扉がすっと隠した。



私は、しばらくボーっとしてその場に立ち尽くした。



はぁ…///

クラクラする。先生、私、また倒れそうです。



fin.