Moon 2 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

ふと、目が覚めると、健ちゃんが隣で座って、本を読んでいた。

ああ、あたし、一回した後、寝ちゃったんだ!なんてもったいない!

ベッドサイドの黄色いライトが、健ちゃんの逞しい上半身や腕や首や、そして、真剣な表情をしたきれいな横顔を優しく照らす。

すごく、絵になるなー。何読んでんだろ?もしかして、台本?

健ちゃんは、ペンで何か書き付ける。

あ、やっぱ台本だ。

ペンを持った手で、下唇をちょっといじる。また、何か書き付ける。

これって、お仕事中ってこと?こんな真面目なカオするんだ。すごい。すごい集中力。話しかけるの、もったいない。

あたしは、みじろぎもせず、健ちゃんの真剣な横顔を見つめる。

健ちゃんは、台本に視線落としたまま、

「なーに見惚れてんだよ」

って。

「え?なに?気づいてたの?」

「当たり前だろー。そんな熱い視線送られてさー…」

って台本を閉じて、サイドテーブルに置く。

「それ、台本?」

「うん。帰ったら、舞台の稽古始まんの。ミオちゃん寝ちゃったから、ヒマでさー」

「ごめん!寝込み襲ってくれたらよかったのに」

「襲ったよー!でも、うーんっ!とか言って振り払われちゃった」

「ウソ⁈」

「うそ。すっごい気持ちよさそうに寝てたからさ、起こすのかわいそうだなーって思って、ちょうどセリフ覚えなきゃなんなかったし」

「大丈夫なの?」

「何が?」

「セリフ。覚えるの大変そう」

「大丈夫、大丈夫。俺、いつもギリギリだから。帰りの飛行機ん中で覚えるから」

うーん。あたしとこんなことしてていいのかなー。

「ミオちゃんは心配しなくていいの。俺、プロだよ?」

ってベッドから降りて、台本をスーツケースにしまって、健ちゃんは服を着る。

「散歩行こ?」

って窓んとこ行って、外を眺めながら、

「月がすっげーきれいなんだって。見に行こうよ」

「い、今から?」

夜中の2時なんですけど?

健ちゃんが出かける用意をするので、あたしは慌ててノースリーブのワンピに脚を入れる。

と、健ちゃんがあたしの背後に来て、ファスナーを上げてくれる。

砂浜は風があるから、大丈夫かなー?ってあたしは自分の肩をそっと抱く。

すると、健ちゃんが、椅子にかけてあった薄いストールをあたしの肩にかけてくれる。

ほんと、健ちゃんってこういうとこスマートなんだよねー。すごくマイペースなようでいて、ちゃんと人のこと見てるんだよね。

「ありがと。これって健ちゃんの?」

あたしはチェックのストールを触る。健ちゃんの匂いがする。

「欲しかったら、あげるよ」

「⁈…なんで、いちいちあたしが思ってることわかんの?なに?健ちゃんってエスパー?」

「だって、顔にかいてあんじゃん」

って健ちゃんが笑う。


月夜の砂浜を手繋いで歩く。波の音。潮の匂い。

月明かりに照らされた健ちゃんのバランスのとれたシルエット。

潮風が健ちゃんの長めの前髪を揺らす。優しく見つめてくれる瞳。ちょっと首を傾げて、前髪をどける仕草。風に揺れて、膨らんだシャツ。

健ちゃんってやっぱハンパなくアイドルだって思う。普通にしてる、普通の歩き方が、何気ない仕草や表情が、女の子のハートを鷲掴みにしちゃうってどーゆーことよ?

健ちゃんが大好き。あたし、健ちゃんに酔ってる。溺れてる。


…ふいに、切なくなる。

健ちゃんとあたしは、住む世界が違うから。

健ちゃんは、あたしのこと、気に入ってはくれてるみたいだけど、愛してはいないから。

あたしは、健ちゃんの、何?

好きって言いたい。愛してるって言いたい。

でも、言えない。

健ちゃんが離れて行きそうで。

こんなに真面目な、こんなに重たい「好き」を、健ちゃんに押し付けられない。

高校生の時みたいに「大好き」って言えたらいいのに。健ちゃんを「好き」って気持ちが、ただ、勇気をくれて、ひたすら嬉しかったあの頃。

健ちゃんに抱かれた後に「好き」を自覚するのが、こんなにも辛いことだなんて。

そんなこと思いもしないで、ただ健ちゃんに抱かれたがってたあの頃。

健ちゃんに抱かれた20歳の誕生日が、幸せな恋のゴールだった。それが、辛い恋のスタートになるなんて、あの日のあたしには、わからなかった。

「あ!」

って健ちゃんが足元見て声をあげる。

「ヤドカリ、ヤドカリ!ほら!」

っておっきな手にヤドカリのせてはしゃいでる。

「お前ー、もう夜だぞー。寝てろよ。家探しは明日にしろ…目、見えてんのかな?目、どこだ?」

ってヤドカリに話しかける35歳。

たまんない。可愛い。

こんなの、健ちゃんしかいないじゃん。夜中に突然散歩行こって言ってヤドカリ見つけてはしゃいでるとか、健ちゃんしか成り立たないっしょ?何?このシチュ。

「あ、どこ行くんだ⁈逃亡する気か?」

って、ヤドカリがあたしの手にやってくる。くすぐったい!

「あ、なんだお前。オスだな?…ヤドカリにもいい女ってわかんだなー」

明日の朝には、健ちゃんは、日本に帰っちゃう。また当分会えない日々が続く。

ヤドカリはあたしの手から砂浜に落ちた。

「ねぇ…健ちゃん」

「ん?」

「…もっかい、して?」

「ここで⁈」

「違うよ!ホテル戻って!…だって、朝が来たら、帰っちゃうでしょ?健ちゃん」

あたしは健ちゃんの手をとって指をからめる。

「好きだなーミオちゃんも」

ってニヤける健ちゃん。

「うん。…好き」
健ちゃんが。健ちゃんのことが。

あたしは違う意味をのせる。でも、健ちゃんは気づかない。

「…健ちゃんもでしょ?」
言ってほしい。一度でいいから。

「うん。好きだよ…」

あたしはその囁きに息を飲む。健ちゃんの照れた表情。

その言葉に酔っていられる間もなく、

「だって、男だもん。嫌いなヤツいないよ。あ、でも案外さー、男より女の人の方がエッチだったりするんだよねー。ミオちゃんみたいにさ」

現実に戻される。

「じゃーあー…、どっちがエッチか比べっこしよ?」

「うわっ。俺、絶対負けるよー」

「寝させないからねー」

って腕を組んで健ちゃんを引っ張って歩く。

「あ!なんだよ!さっき爆睡してたろ?」

「だから、復活したの」

「ずるいよー」

「健ちゃんなんか、帰りの飛行機で爆睡しちゃえー!」

「なんだよ、それ!」

「セリフ覚えられなくしてやるー!」

「はあ?何言ってんのー?」

あたしたちは、じゃれ合いながら、月を連れて、ホテルまでの道のりを歩いた。