静かに隣にいてくれるだけで、気持ちが落ち着いてくるから不思議だ。
泣きながら少しずつ話す間、宝先生は相槌を打つ以外特に何も言わなかった。
条くんと自分の関係を特別だと感じた勘違いや、醜い嫉妬心は、恥ずかしいけど、宝先生になら正直に話せた。
先生は人を否定しないから。
「勘違いかどうかは、わからないよ?」
と先生は言った。
「条くんも、そう思ってるかもしれない」
「え⁇」
「ああ…ごめん。余計期待しちゃうか。…うーん…」
考えながら言葉を探す先生の誠実な態度が、言葉そのものより嬉しい。そう思うのは、よっぽど私が寂しかったからだろうか。
宝先生の真剣な横顔。長い睫毛。前屈みになって膝に肘をつき、両手を顔の前で合わせて、言葉を探している。
「なんて言うか…」
今度は身を起こしてソファにもたれ、腕を組む。私をチラッと見て、片手を前に出し、
「俺は男だからね…?」
ってその手を胸に当てて片眉を上げる。
「これは男のわがままかもしれないけど…上野さんの存在は、俺だったらね?やっぱりちょっと特別だと思うよ。彼女がいても」
「え⁇」
と、そのとき、
「あーら、大胆発言」
って声がして、振り向くと、聡美さんがドアを開けてリビングに入って来た。
相変わらずのナイスボディー。フレアスカートを揺らせて颯爽と歩いて来ると、
「ごめんね。おまたせして」
と私に微笑み、腕を組んで宝先生を見下ろした。
「先に始めててって言ったけど、何を始めちゃってるのかなぁ?宝センセイは」
聡美さんが首をかしげる。カールした毛先がくるんと揺れる。
「な、何も始めてないよ?」
宝先生は少し距離を取って座り直した。
「あら。聞いたわよ。なんだか深刻そうだからドアの向こうで様子伺ってたら、『彼女がいても、上野さんは特別』って何それ?どういう意味?」
「だから!俺が条くんだったらって話だろ⁇条くんにとって上野さんは特別って意味だよ」
「だったらそう言いなさいよっ」
「言ったよ!…言ったよね?」
「は、はい」
でも、私も一瞬ドキッとした事実は隠しておこう。