桜の蕾 8 嫉妬と期待 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

宝先生があったかいお茶を淹れてくれた。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


宝先生は何も言わずに私の隣に座った。


ソファに先生と並んで座っている。


「前にも…ありましたね。こんなこと」


「ああ…保健室で」


隣に感じる宝先生の体の逞しさが、なんだか頼り甲斐があって、ほっとする。


前も、条くんのことで慰めてもらったんだっけ。



「ごめんね。聡美すぐ帰って来ると思うんだけど」


と、辺りを見回す。


「いえ…」


聡美さんに会って話したいという思いと、今、聡美さんと宝先生のカップルを目の前にしたら悲しくなりそうだという思いが入り混じった。


「条先生に、会ったんです」


「条くんに?今?」


「はい。スーパーで」


「ああ」



次の言葉は、涙声になってしまった。


「…千帆さんと…一緒でした」



涙が溢れ出た。


「元気そうでした」


ダメだ。

膝に乗せた手の上に涙がはらはらと落ちた。


「痩せてたけど…元気そうでした」


ダメだ。感情を吐き出したら、止まらなくなる。


「全然、元気そうでした…っ」


私は顔を覆って泣いた。




もっと悪いんだと思っていた。例えばあまり出歩けないとか、もっといかにも青白い顔をしているとか…。


なのに、条くんを見る千帆さんの目は生き生きしていて、声も弾んでいて、確かに痩せてはいたけど、むしろあんなに細くて羨ましくなるくらい…綺麗だった。


すごく綺麗で、輝いてた。


幸せそうだった。


条くんにうんと愛されてるんだって、伝わってきて…


私はスーパーを出たとき、思わず「元気じゃん」って独り言を言ってしまった。



それが自分でもすごく意地悪に聞こえて、ハッとした。


千帆さんを見た瞬間、今までの同情が一気に嫉妬に変わってしまった。


夏に条くんと偶然会って手を繋いだ時から、私は、恋人じゃなくても、条くんと私の関係は、何か運命的な特別なものだと、勝手に思い込んで、夢を見ていた。


条くんが千帆さんのために頑張ってる。そう思うことで私も頑張れた。

離れてても、支え合ってるんだって、そう思ったから、私も強くいられた。


千帆さんの病気が良くなればいいと本気で願っていた。条くんの努力が報われますようにって祈ってた。


だけど、それは…本当に純粋な気持ちからそう思っていたんだろうかと、今になって思う。



条くんが千帆さんと試練を乗り越えた先に、私は何かを期待してなかった?




条くんの笑顔。優しい声。




「桜…」


って条くんが私を呼ぶ。






「もう、あいつ、俺がそばにいなくても大丈夫なんだ」






いつか、そんな日が来ると、心のどこかで期待してなかった?




私と条くんの運命を信じてなかった?




バカだ。バカだよ。私。



そんなはずない。そんな日が来るわけない。


だって、あのふたりはあんなに愛し合ってるんだもん。



条くんは…


私を強くしたようにあの人を強くして、


私を励ましたようにあの人を励まして、


私を欲しがったようにあの人を欲して、


私を満たしたようにあの人を満たしているんだ。


今、この瞬間もあの人のそばで…。


条くんの笑顔も仕草も声も



あのとき繋いだ手も…


全部…もう…


私のところに戻って来ることはない。



そう思ったら涙が止まらなかった。