そのお祝いに3人で旅行に行った。行き先は、私と条くんが幼い頃過ごした町。
いつかまた来てみたかった。
外から見ただけだけど、中学校は変わってなくて、懐かしかった。
20年以上前と変わらない風景。隣には、眩しそうに校舎を見上げる条くん。
「なっつかしいなぁ」
条くんが片手をポケットに入れて、もう片方の手でフェンスを掴む。
カシャ…ン…。
グランドを走る生徒たちを目を細めて見る。髪が風になびく。
条くんがいる。
条くんといる。
あの頃から今まで、まるでずっと一緒にいたみたいな錯覚に陥る。
「変わらないね。条くん」
「え?」
そんなわけないだろって少し照れて笑う。
「ううん。変わらないよ。そういう表情。あ、でも、昔より柔らかくなったかな」
「…まあ、おじさんになっちゃったからね」
そう言って微笑む顔が柔らかくてあったかくて…愛おしかった。
千帆と懐かしい思い出の場所を巡って、あの頃に戻ったような気持ちになった。
それが刺激になったのかもしれない。
帰ってきてから、千帆と頻繁に抱き合うようになった。
肌を重ねるごとに、愛しさが募った。
俺の下で波打つ千帆の汗ばんだ体。
「…ア…ッ…条く…ぅん…っ」
千帆の表情、声、体温。
生きてる。千帆は生きてる。
「ちぃ…っ…」
熱い千帆の中に潜り込む。
差し出された手をギュッと握りこんでシーツに押し付ける。
千帆が涙を溜めて俺を見上げる。
そして俺は、千帆の中に愛を放つ。
秋までと言われていた千帆は、冬になってもまだ俺のそばにいてくれた。千帆と桃と3人で新しい年を迎えた。
薬が一定の効果を上げているとはいえ、年が越せるなんて奇跡的だと医者は驚いた。
「先生のおかげです」
と言って頭を下げると、医者は、
「いやいや、愛の力ですよ」
と俺たちを見て微笑んだ。
「我々にできることは限られてます。ご本人の生きる力と、ご家族の愛に勝るものはありません」
『条くんが一番のお薬になるね』
ほんとに、お前の言う通りになってんのかもしれないな。桜。
ここまで来たら、桃の卒業まで見届けさせてやりたい。
いや、卒業までと言わず、ひょっとすると奇跡が起こるかもしれない。
そんなことを期待してしまうほど、千帆の体調は良かった。