桜の蕾 3 千帆の瞳 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

病院の後で、例のオーガニックレストランに寄ってランチを食べた。


「すごくいいところね。見晴らしもいいし。前から知ってたの?」



「健と宝と一回来たんだ」


「男3人で⁇」


「うん。もう歳だからさ、みんな健康に気使ってんだよ」



ふふふって千帆が笑った。



嘘はついてない。桜とは偶然出会っただけだし。




完璧なデートコースなんつってあの時はディナーと夜景だったけど、千帆は夜は疲れてしまうから、千帆とならランチの方がいい。


それに…夜だと桜を思い出す。





偶然出会った瞬間の桜の眼差し。
後部座席で手を繋いで見た夜景。


キラキラした光の粒と、握り返してくれた桜の手の温もり…。


無意識のうちにテーブルの下で右手を握りしめていた。



「条くん?」



「…ん?」



千帆が俺を見ていた。


寂しげな黒い瞳に揺らめく一点の星。小さな光の粒。


俺はじっと千帆を見つめ返す。


子供の頃から俺を揺さぶってきた千帆の瞳。死んだらもうこの瞳には出会えない。二度と、この瞳がこんなふうに俺を映すことはない。



どんなにたくさんの光を失ったっていい。


この光だけは、失いたくない。まだ。


少しでも長く…一日でも長く…。




「桃の合格決まったらさぁ…」


俺はパスタをクルクルとフォークに巻きつけ、


「どっか旅行でも行くか」


パクっと一口で食べた。



「どっかって?」


「どこでも。千帆の行きたいとこ。どっかないの?」


水を飲みながら、千帆を見る。


千帆が頬杖をついて考える。



「条くんとなら…どこでもいいなぁ…。あ!…あった。行きたいとこ」


「どこ?」


「中学校。私と条くんの」


千帆の瞳が輝いた。