一月のある日、桃に、
「ねぇ、条くん、相談があるんだけど」
と言われた。
「なに?」
千帆はもう寝室で休んでいたから、リビングには桃と俺しかいなかった。
「もし…私が答辞を読むってなったら、ママ、卒業式まで頑張れるかな?立候補制なんだって。立候補してみようかな。どう思う?」
「へーぇ。いいじゃん。お前が読むなら俺も卒業式行きたいな」
「でも、かぶってるんでしょ?ヴィクトリー校の卒業式と」
「ああ」
「じゃ、無理じゃん。卒業生たちの学年主任が抜けるわけいかないでしょ」
そりゃそうだ。
「ねぇ…条くん」
「ん?」
「ママ、最近調子いいでしょ?」
「ああ」
「だから…私…なんか…ひょっとしたらこのままずっと…って期待しちゃうんだ。そんな奇跡、起こらないかな?」
***
三年の担任会議で卒業式の準備について話し合った。
「答辞の指導は…」
俺は和装で並んでる健と佐久間を見る。こういうのは国語の先生だから…
「健?佐久間?」
「じゃ、佐久間で」
と健が頬杖ついて隣の佐久間を見る。
「なんでですか⁇」
「国語科でしょ。お前」
「健ちゃん先生だって国語じゃないですか!」
「そうだけどさぁ。お前やったことないだろ?答辞の指導」
「はい」
「だからやった方がいいよ」
「うーん…自信ないなぁ」
「どうする?する?」
「先生、手伝ってくれますか?」
「えーっ⁇」
俺は二人のやりとりを見て笑うと、
「じゃ、決まり。答辞は佐久間がメインで健がサポート」
「「はっ⁇」」
健は俺は何もしないよ?とか言いながら、「去年の答辞出しといてやるよ」と佐久間に呟いた。
「卒業の歌は?決まった?」
今度は宝を見る。
「まだ。卒業委員の間で検討中」
「そっちは宝に任せる。歌とピアノの指導よろしく」
「了解」
会議が終わったところで、
「あ、条先生」
と、佐久間が手を挙げた。
「上野先生、卒業式に呼びましょうよ!招待状書きます?来てくれますよね?」
急に桜の名前が出て、ドキッとした。
「お前そういうのはね、事務方がやってくれるから、俺たちはやらなくていいの」
健が呆れた顔で言う。
「え?そうなんですか?」
俺はトントンと書類を揃えると、チラッと佐久間を見て、
「来るんじゃない?向こうの卒業式とかぶってなかったから」
と言って席を立った。