「大丈夫か?」
東は黙って頷き、すみませんと小さな声で言った。
また倒れてみんなに迷惑かけるのが嫌だからと修学旅行に行くのをためらっていた。親も無理に行かせるつもりはなかった。
そんな東を一緒に行こうと説得し、ここまで連れて来た責任が、俺にはある。
「別に謝ることないだろ」
東は、真面目で色んなことが気になり過ぎて、友達とうまくコミュニケーションが取れない。自分から距離を置いている。
彼女がひとりで平気な性格なら、俺だって放っといた。
だけど、東はそうじゃない。ほんとはみんなとワイワイやりたいんだ。だから、みんなの中に入って行けない自分が嫌でたまらない。情けなくて自信がなくて…。
「私なんか来ない方がクラスのみんなも楽しめたのかな…」
「まぁたそんなこと言って」
「だってお風呂入ってる間に佐藤さんも塩見さんもどっか行っちゃって…私、ふたりの邪魔してるっていうか」
「そんなことないって。あいつらジッとしていられないだけだから」
「でも…」
「でもはナシ!邪魔だと思ってんなら三人部屋にするわけないだろ?あいつらが誘ってくれたんじゃん」
「それは気を遣って…」
「気を遣ってくれたんだよ。悪いことじゃないだろ?気にかけてくれてんだから」
「…そうですよね…」
「じゃ、俺クラスレク行くから。もし大丈夫そうなら、見るだけでもいいから来いよ」
「はい」
「じゃ、石田先生、あとお願いします」
「はい。ご苦労様」
五組のクラスレクの場所は北のホールだが、そこへ行く途中、アリーナ(体育館)の前を通ると、歓声が聞こえて来た。
条と宝のクラスが抽選でアリーナを引いて、クラス対抗ドッジボールをやっている。
前からスーツ姿の門地さんが歩いて来た。
「あ、件先生。大丈夫ですか?さっきの生徒さん」
「ああ。大丈夫。モンチッチは?」
「ちょっとアリーナの見学に」