カミセンの修学旅行引率 13 健くんの努力 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「東さんが、そこの階段のところで倒れてます!」


上野さんがそう言って、俺たちは駆け出した。



「意識は?」


走りながら健くんが上野さんに聞いた。


「ないみたいです」


「石田先生は?」


「生徒に呼びに行かせました」


現場に着くと、養護教諭の石田先生が階段の中程で倒れている東に付き添っていた。


「ちょっとどいて」


野次馬の生徒をどかせて、健くんが東に駆け寄る。


「おい!東!」


「意識がないのよ。車椅子は今門地さんに取りに行ってもらってるけど」


「また、いつもの?」


「たぶんね」


東は学校でも時々倒れる。原因は不明だが、保健室に連れて行くと意識が戻り、大事に至ることはない。


「でも、階段は危ないわ」


「そうですね。誰か見てた?東が倒れたとこ」


健くんが聞いたが、みんな首を横に振った。


そこへ門地さんが車椅子を押して走って来た。


「車椅子借りて来ましたっ」


「すみません。ありがとうございます」


車椅子を階段の下につけたところで、条くんが、


「さあ、みんなもうクラスレクの時間だぞ!」


と言って手を叩いた。これから、クラスごとに体育館やホールを借りて90分ほどレクリエーションをする予定になっていた。


「先生は?」

条くんのクラスの子が心配そうに言うと、

「行く行く」

と答えながら条くんはチラッと健くんたちの方を見た。


意識が無いなら、車椅子まで東を運ばなきゃいけない。


「健くん、俺運ぼうか?」


「いや、いいよ。クラスレク行って。俺が運ぶから」


「ひとりで行ける?」


「大丈夫。林!」


健くんが髪をかきあげて学級委員の林を呼んだ。


「はい!」


「クラスレク、お前が仕切って、先始めてて」


「わかりました!みんな行こう!」


生徒たちはザワザワと話しながら散り始めた。


健くんが「いよっ…!」と東を抱き上げた。


「大丈夫?先生。足元気をつけて」


と石田先生が言った。


健くんが東を抱いて階段を降りる。その姿を見て囁き合う生徒たちの声が俺の耳に入った。


なんであの子いつも倒れるの?
ほんとに意識ないの?


そこには猜疑と嫉妬の響きが混じっている。


東は倒れても大事に至らない。それを繰り返すうちに、彼女を心配する気持ちがみんなから減っていく。そして、また、東は孤立を深めて行く。


「クラスレクに参加できなくなったな」


条くんが東を見て呟いた。


行事のたびに休みたがる東が修学旅行に来れたのは、担任が健くんだったからだ。

2年生の最初から、健くんは東が孤立を深めないように色々細かく気遣ってきた。1年のときは欠席した体育祭や文化祭も、2年では健くんがうまく巻き込んで出席させたし、本人も楽しそうだった。


「2年は修学旅行があるしね。ただでさえあんな奴だろ?思い出を共有できないと、後半もっとクラスに居辛くなるから」


健くんは東の居場所をクラスに作ってやりたかったんだ。