俺の手の甲を包むように重ねられた条の手を見ながら、
「俺は大丈夫だよ。俺はね?」
って言った。
「…でも、新城が大丈夫じゃないとお前だって平気じゃねーだろ。今日遅れたのも、そのせいなんじゃないの?」
「まあ…うん…。それもあるかな」
ゆかりは飛行機事故で母親を亡くしている。本人も生死の境をさまよった。
だから、俺が飛行機に乗るのが不安で仕方ないんだ。今月に入ってからずっとナーバスになってて、眠れない日が続いていた。
可哀想だけど、修学旅行に担任が行かないわけには行かないし、ゆかりも俺に行くなと言ってるわけじゃない。
これからだって俺が飛行機に乗ることはあるだろうし、だから本人も慣れなきゃいけないとは思ってて、なんとか俺に負担をかけまいと明るく振る舞ってはいた。
それでも、不安な気持ちはどうしようもなくて…。
「健ちゃん、明日早いから…」
「…うん…」
と言いながらも、どうせ眠れないんだからと、ゆかりを抱いた。
それで気持ちよく寝てしまえればいいなと思ったけど、ゆかりはとうとう不安に押しつぶされて、泣き出してしまった。
なんていうか、ちょっとしたパニック…。
いろんなことを乗り越えてきたゆかりだけど、基本センシティブな人だから…。
何も言わずにただ涙を流すゆかりの気持ちが俺には痛いほどわかった。
心を込めて愛し合うほどに、
愛を確かめ合うほどに、
これが最後になるんじゃないかと
不安になる。
もう二度と俺に愛されることはないんじゃないかと。
心を込めて言葉を紡いでみたものの、事故らないなんて根拠はどこにもなくて、俺の言葉は虚しく宙に浮くばかり。
俺が優しくすればするほど、ゆかりが俺を失いたくないという気持ちは大きくなって、離れがたい気持ちを募らせて涙をこぼすゆかりを、俺はただ抱きしめていた。
「別に来なくてもよかったのに。お前ひとりくらいいなくても」
「そういうわけいかないでしょ!現実問題」
「お前だけ青函トンネルで来るとか」
「それ、俺も考えた!電車とか船とか車とか。でもさ、事故る確率、車の方が高いんじゃない?って思ってさ。まあ、確率の問題じゃないんだけど」
「だな」
昨夜寝ていなかったせいで、離陸してまもなく、俺は睡魔に襲われた。ゆかりは心配してるだろうに呑気なもんだ。
そして、条も隣で寝ていたことを新千歳空港に着いてから知った。
「爆睡してましたよ!条件♡仲良く手繋いでもたれあって」
「「ウソだろ?」」
俺たちがハモるのを、みんなが見て笑った。
俺は空港ロビーでみんなの輪からひとり抜け出し、隅の方へ行って、ゆかりに電話をかけた。
ワンコールで出たゆかりに、
「無事に着いたよ」
って言うと、
「よかった」
ってホッとしたゆかりの声が聞こえた。
「俺も、ホッとしたよ。ゆかりの安心した声聞けて」