件先生が生徒たちの間を縫って私の所に来る。
「足りませんでした?」
「うん。僕の分が無いんだけど」
「あ。なんだ。…先生の分は別に用意してありますので。今お配りしますね」
「あ、そうなんだ。ごめんごめん。あ、配りましょうか?」
「いえ、あの、席が決まってるので私がお配りします。えっとこれは…佐久間先生」
「佐久間ーっ!」
先生が呼ぶと、生徒と見間違えそうな若い佐久間先生が「ハイッ!」って躾けられた犬みたいに走って来た。
「来た来た。…で、これは?」
「上野先生です」
「上野さーん!はい、みんなちょっと集合!搭乗券配りまーす」
件先生の声はよく通るから助かるなぁ。
「はい、これ件先生」
「誰の隣?」
「条先生です」
「マジで?やなんだけど」
「え?」
「代えてもらえますか?」
「…は…?」
先生がそんなわがまま言う?って呆れた瞬間、
「門地さんの隣ならいいけど」
って…。
「え?…///」
「モンチッチの隣は誰なの?」
「も、も…」
モンチッチって…私の子供の頃のあだ名。ひ、久しぶりに呼ばれた。
「モンチッチの隣の方がいいなぁ」
え?な、なんで?どういうつもりでそんなことを…///
セクハラですか?
いや、ハラスメントじゃない!全然嫌じゃない!
むしろ…嬉しい…。
「あ。わがままだなって呆れてる?」
って顔を覗きこまれて…近い近い!///
しかも、いつのまにかタメ語だし。
「いえ、あの…件先生の隣にしてくれって言ったのは条先生で…。行きも帰りも」
「え?マジで?なんなの?俺のこと好きすぎるでしょ。あいつ」
先生は「ご指名とあっちゃ仕方ねーなー」って笑って髪をかきあげた。
あは。嬉しそう。可愛い。
「ね?あいつツンデレだからね?」
件先生の人懐っこい笑顔。
モンチッチかぁ…。
なんか、件先生のおかげで、私のアウェイ感が一気に吹き飛んだ気がする。
うん。5日間、ヴィクトリー校の先生たちと仲良くやって行けそう。
そして、私の座席の隣は…
私は、点呼を取り終えて、列の後方で条先生と何か打ち合わせをしている宝先生を見た。
周りがうるさくて聞こえにくいのか、条先生の方に耳を傾けて、上目遣いになっている。
私の座席の隣は宝先生。
こういうの、職権濫用って言うのかしら?
いや、だって宝先生は修学旅行主担なんだもの。添乗員の隣が普通だよね?
ああ…でもドキドキするなぁ。