「ちっきしょう…かてーなっ!」
モーターのボルトが締まり過ぎてるのを緩めようと、俺は懸命になっていた。
すると、後ろで砂漠に腰を下ろしていた王子さまが、出し抜けに、こう聞いてきた。
「羊ってさぁ、小さい木を食べるんなら、花も食べるよね?」
「食うだろ。あるもんみんな。手当たりしだい」
俺はボルトとにらめっこしてる。工具を変えてみるか。
「トゲのある花も食べるかなぁ」
「食うよ」
「じゃ、トゲは何のためにあるの?」
一向に緩まない。誰だ?こんなに固く締めたヤツは。…俺か。
「ねぇ、食べられるんならさぁ、トゲは意味ないじゃん。なんでトゲがあると思う?トゲの存在意義って何?」
また始まった。知りたがり屋の聞きたがり屋。ボルトの存在意義ならわかるけど…。
「ないない。トゲの存在意義なんてないよ。花は意地悪したいだけだろ」
「へーぇ!」
王子さまはしばらく黙ってから、
「ねぇ?それ本気で言ってる?」
「ああ、本気本気」
「マジで?…花はね、弱いんだよ。弱いから、トゲを武器にして自分を守ってるんだって!花は案外無邪気なんだぜ?」
俺は何も言い返さなかった。だって、とにかくボルトを緩めないことには前に進めない。
…いっそ金槌でぶっ飛ばしちまうか?
「ねぇ、ほんとにそう思ってるの?花は意地悪だって…」
ああ…もう!くだらない質問で邪魔しないでくれ。
俺は金槌を掴むと、王子さまを振り向いた。
「ちょっと黙れよ!」
王子さまがビクッとして金槌を見たので、俺は慌てて、語気を緩めた。
「いや…これは…」
殴ったりしねーって。
「別に本気じゃないって。…ってか、花の存在意義とか」
「トゲの存在意義だよ」
「トゲの存在意義とか、どうでもいいよ。俺は今、それより大事なこと考えてんだよ」
すると、王子さまが挑むように、
「何?大事なことって」
と言って眉をひそめた。
俺はため息をついて天を仰いだ。
それから格闘してるモーターのボルトに目をやり、次に自分の格好を見た。
機械油の飛んだ操縦服。真っ黒になった指。手には金槌。
汗と機械油にまみれた俺の顔を、王子さまは、悲しそうな目をして見つめていた。
風が吹いて、王子さまの足元の砂が舞い上がった。綺麗な髪がサラサラと揺れて顔にかかった。
「まるで、大人みたいな口のきき方するんだね」
「いや、大人だし。ってかあんたも」
とっさにそう返したが、王子さまに言われると、なんだか大人であることが急に恥ずかしくなった。
俺は目を伏せて、落ちかかった髪を耳にかけた。