どうやら王子さまは地球ではない、どこか別の星からやって来たということ。
そして、その星は家くらいのちっぽけな星だということ、など。
3日目の昼間、俺がモーターを修理していると、王子さまは砂の上に三角座りをして、ポケットから俺の描いた羊の絵(箱の絵)を大事そうに取り出した。
「羊ってさぁ、小さい木を食べてくれるよね?」
絵を眺めながらそう言った。
「ああ」
俺はちょうどそろそろ休憩しようと思っていたので、工具を工具箱に放り投げると、額の汗を腕で拭いながら、王子さまの隣に座った。
俺は邪魔な髪を耳にかけて、絵を眺める王子さまの横顔を見た。
「じゃあ、バオバブも食べてくれるよね?」
「バオバブ⁇」
思わず声がひっくり返った。
「バオバブはちっちゃくないだろ!デカい木だよ。ゾウがよってたかって食ったって食べきれないよ」
「でもさ、バオバブだって最初はちっちゃかったじゃん」
「そりゃそうだけど。なんでバオバブなんて食べさせたいの?」
「え?知らない?マジでヤバいんだって。バオバブ。根の勢いがすごくて、バーッて張っちゃうから。うちなんかちっちゃい星でしょ?あの根がはびこったら、星が壊れちゃうよ。だからまだ小さいうちに引っこ抜かないとダメなんだって」
「へーぇ。そうなんだ。全然知らなかった」
「小さいうちはバラの木とよく似てるんだけど、見分けがつくようになったら、一本残らず引っこ抜かなきゃ。面倒くさいけど、それをサボったがために、星をダメにしちゃった人がいるの、僕知ってるからさ」
「ふぅん」
これでまたひとつ王子さまとその星のことがわかった。
「あ。そうだ!そのバオバブに壊されちゃった星の絵描いてよ」
「は⁇」
また無茶振り…。
「ムリムリ。だって俺その星知らねーし」
「今話したじゃん」
「いや、そうだけど、そうじゃなくてっ」
「啓発ポスター作ろうよ!」
「聞けよっ。人の話」
「絶対役に立つよ」
「どこに貼るんだよっ」
俺は両手を広げて砂漠を見渡した。
「いいから描いてよ!」
『バオバブの木に気をつけよう!』