ブレザーを脱いでブラウスだけになると、
「…ん」
って先生がジャケットを肩にかけてくれる。
ブレザーよりもしなやかであったかくて、先生は小柄だけど、やっぱり男の人の服は大きくて…
すっぽりと先生の匂いのするジャケットに包まれて、前を合わせた。
「おっきい…」
って呟くと、先生が少し微笑んで、シートにもたれた。
ネクタイを緩めて、手を頭にやって…
私の腹痛が治まるまで、付き合ってくれるみたい。
「先生って、優しいですよね…?」
って呟くと、それには答えずに、
「腹、どう?」
って心配そうに私を見る。
「マシになりました」
でも、だからって、すぐに降りろとか、じゃあ行こうとかは言わずに、黙って私の様子を見守ってくれている。
先生は、優しい。
しみじみとそう思うと、ふたりきりでいる緊張感よりも、先生と会えなくなる寂しさの方が募ってきて…。
「先生…」
楽しかった先生の授業。
銀のチョークホルダー。
カッコいい横顔。お茶目な笑顔。
この間御守りを探してくれたときの、先生の背中。
ハンドルを握る先生の後ろ姿。
ルームミラーで目が合ったときのドキドキ。
優しい声。
楽しそうな笑い声。
今、目の前で黙って私の言葉を待っていてくれる先生の気配。
何もかもが愛し過ぎて…
「先生…私…先生のこと…」
言葉を切って、先生を見ると、先生も振り向いて、私を見た。
肩が触れそうなほどそばにいる先生。
先生のジャケットに包まれてる私。
じっと私を見る先生の黒い艶やかな瞳。
雨の音が聞こえる。
想いが、溢れる。
「…好きです」
まっすぐ先生の目を見て、言えた。