娘はまだ信じられずに、首を横に振りました。
男は、天の羽衣をさっと脱ぐと、娘の前に跪き、その羽衣を娘の方へ差し出しました。
「この羽衣を…預かってくれないか」
娘は両手を口に当て、ただ黙って男を見下ろしていました。
「この羽衣は…あなたのものだ。そして、この私も…」
男は呆然とする娘の手を取り、羽衣を握らせました。
そして、
「お嬢さん…私のお嫁になってください」
と言いました。
娘は羽衣を胸に抱きしめ、天を仰いで、
「ああ…っ!」
と言うと、目を閉じました。
娘の目尻から涙がこぼれ落ちました。
と、そのときです。
草陰から、娘の名を呼ぶ男の声がしました。
「おい、いつまで洗濯しておるのだ。母上が待っているぞ」
男は、それを聞いて、ハッとしました。
なんということでしょう。
男は、娘に新しい婿がいることなど全く想像していなかったのです。