ある冬の日の朝早く、娘は川へ洗濯に来ていました。
川の水は氷のように冷たく、娘はかじかんで真っ赤になった手にはぁっと息を吹きかけて、擦り合わせました。
あのとき…と、娘は天へ帰った男のことを思い出しました。
黄色い羽衣を見つけたときは、よくこんな冷たい川に入ったものだ…。
あのときはただ無我夢中で、冷たさなどまるで感じなかった…。
娘はふと天を見上げました。
朝日が雲間から差し込んでいます。
そして…
朝日に輝きながら黄色い羽衣がフワフワと舞っているのが見えました。
ああ…あの方を思うばっかりに、とうとう私は羽衣の幻を見るまでになってしまった。
幻でもいい。
夢でもいい。
あの方に会うことが叶わぬのなら、せめてあの羽衣に触れるだけでも…。
娘はじっと羽衣が舞い降りてくるのを待ちました。
羽衣はどんどん近づいてきます。そして、どうやらそれは羽衣だけではないようなのです。
風を孕んでふわふわと空を舞う柔らかな黄色い羽衣。それを羽織って両手を広げているのは…白いゆったりとした衣に身を包んだ男なのです。
驚きのあまり娘は小さな悲鳴をあげました。
なんということでしょう。これは夢か幻に違いない、娘はそう思いました。
羽衣を羽織った男が、とうとうふわりと川岸に立つ娘の前に舞い降りました。
娘は、
「あなた…。まさか…。私は夢を見ているんだわ…」
と呟きました。
すると、男は、
「夢などではない」
と言って、まっすぐに娘を見つめ返しました。