天の羽衣 12 絶望 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?


男は呆然と土下座する母を見つめていました。

「帰らないでと言われても…もう…」


フラフラと土間に下りて、母を見下ろし、


「帰れないではないか…」


と言ってフッと冷たく笑いました。


「あなた…」


男は娘を見ようともせず、ふたりの横を通り過ぎ、戸を開けました。

冷たい北風とともに雪が家の中に舞い込みました。


「あなた…どこへ…?」


男には娘の声は耳に入りませんでした。よろよろと雪の中へ足を踏み出し、曇った空を見上げました。


男の髪に、睫毛に、雪が降りかかってきます。




「あなた…」


男はガクリと雪の中に跪きました。そして両手で頭を抱え、「ああっ…‼︎」と悲痛な叫び声を上げました。


身を震わせて泣く男の頭に、肩に、雪が降り積もります。


男は、二度と帰れぬ天を恋しく思って泣くのでしょうか。

それとも、天と地に災いをもたらす恐ろしさを嘆くのでしょうか。


娘は胸をえぐられるような思いでした。


やがて、娘に気づいた男は、真っ白な地面を見つめたまま、


「冷えるから…中へお入り…」


と言いました。


けれど、どうしてこんな男を放っておけましょう。


娘は駆け寄って、男の肩に手を置きました。


男は自分の肩に置かれた娘の手を見ました。それから、娘の顔に目をやりました。


娘は男の顔を見て、ハッと息を呑みました。


涙に濡れた男の目はきらきらと輝いていました。けれども、その瞳はすっかり温かさを失っていました。


「入れ…」


「え?」


「家に入っていろ!」


男は涙をこぼしながらそう叫ぶと、娘の手を振りほどいて、立ち上がりました。


「ああっ!」


娘は雪の中に倒れ込みました。


しかし、男は娘に背を向け、雪の中へ駆け出して行ってしまいました。