※本日2話目の更新です。
「ひょっとして…」
ちょうどそのとき、家の戸が開く音がしました。母が外から帰って来たのです。
「お母さん!羽衣を…っ…押入れの隠し棚にあった羽衣を知りませんか?」
母はハッとして、それからすぐに目をそらせました。
「お母さんっ!」
娘は裸足のまま土間に下りて、母の肩を掴んで揺さぶりました。
母は、顔を上げて、娘の向こうに立っている婿を見ました。
そして、きっぱりとこう言いました。
「捨ててしまいましたよ」
男の顔がサッと青くなりました。
娘は、
「そんな…⁉︎どこへ捨てたんですかっ⁇お母さんっ‼︎」
と言ってから男の方を向き、
「取ってきます!探してきますから!」
と言いました。
「無駄ですよ。川へ流してしまいました」
母の声は男と娘を凍りつかせました。
「ああ…お母さん…なんてこと…」
娘はヘナヘナとその場にへたり込みました。
母はすっと男の正面に立つと、土間に膝をつき、正座しました。それから、膝の前に指をついて、男を見上げました。
母の目には涙が溜まっていました。
母は突然ガバッと額を地面につけました。
「どうか…後生ですから…っ…天に帰らないでくださいっ!」
娘は驚いて土下座する母を見ました。
「約束をしたからといって…この娘を置いて、天に帰るなど…子まで為した仲ではございませんか!
子供が生まれるまでと言わず…どうか、ずっとここにいてください!
この娘と…この娘と…添い遂げてやってください!お願いですから…天に帰らないでやって下さいまし!」