天の羽衣 18 導きの鳥 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

その時です。


口づけを交わすふたりの胸の辺りからぼうっと金色の光が生まれ、ふたりを照らしました。


ハッとして、唇を離して見ると、その光は男の着物の合わせから漏れ出ているのです。


男の胸元から、バサッ…と、小さな羽ばたきの音がしました。


「あなた…」


ふたりは顔を見合わせました。

男は慌てて、胸を押さえました。


「ダメだ…っ!…まだだっ!」


男がギュッと掴んだ着物の合わせから金色の羽根が一枚、ひらりと溢れました。


「まだだっ!…今飛び立ってはならぬ!」


けれども、小さな金色の鳥は男の手をすり抜けて、ふたりの頭上に羽ばたきました。



金色の光が、涙に濡れたふたりの顔を照らしました。光の粉がふりかかります。


鳥は黄色い羽衣の上に降り立つと、嘴で羽衣を咥え、男の前に羽衣を差し出しました。

羽衣がふわりと男の頰を撫でました。



それはまさしく、男を天へ、そして天王へと導く、導きの鳥だったのです。



とうとう別れの時が来ました。


娘は羽衣の端を手にとり、


「さあ…」


と、男の肩に羽衣をかけました。



「あなたは、あなたにしかできないお務めをなさいませ」


娘はしっかりと男の目を見て言いました。



「そうして…天から私をお守りください」




鳥が光の粉を振りまきながら男の周りを一周飛ぶと、金色の光に包まれた体から着物が消えました。



男は目を伏せました。睫毛の先が震えています。しかし、グッと歯を食いしばり、次の瞬間、カッと目を見開きました。



そして、羽衣を翻して、すっくと立ち上がりました。


男の美しく逞しい裸体には、既に王の貫禄が備わり、神々しいほどに光り輝いていました。


娘はその足元にひれ伏しました。


男は、片膝をついて、娘の顎に手をやり、上を向かせました。


「俺も…お前を愛した記憶とともに生きよう」


娘は涙を堪えて男を見上げました。


「天から降る雨を俺だと思え。お前を思って泣く俺の涙だと。…そして、天から射す光を俺だと思え。お前を抱きしめる俺の腕だと…」


そう言うと、男はギュッと娘を抱き締めました。



「…きっとお前を…温めてやろう」


娘は、男の肩に顎を乗せ、目を閉じました。


「はい…」



娘の目尻から一筋の涙が頰を伝いました。



「愛している」



「はい…私も…」



それから、男はクッと眉間に皺を寄せ、万感の思いを込めて、言いました。



「世話になった」




その瞬間、娘の目から涙がとめどなく溢れました。


口を開くと、きっと嗚咽になり、男の決意を鈍らせてしまう。

ですから、娘は唇を噛んで耐えました。




やがて、ふたりは体を離しました。


これで見納めだというのに、娘は男をまともに見ることができません。



「どうぞ…お元気で…」



娘は額を床につけて、深々とお辞儀をしました。



やがて、鳥の羽ばたく音が聞こえ、娘のそばに風が起こりました。


俯いた娘のほつれ髪が、その風に揺れました。


ああ…とうとう本当に行ってしまう…!


とたんに、行かないで!と言ってすがりつきたい衝動が、娘を突き動かしました。



「あなた…っ‼︎」


と叫んで、娘は顔を上げました。






しかし



その時にはもう



黄色い羽衣をまとった男は


開け放たれた戸から

冬の夜空に向かって



天高く、舞い上がっていました。





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