天の羽衣 15 羽衣と男 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

男は雪の中を、羽衣を探し求めて、川伝いに歩いていました。

なんとしてでも、羽衣を見つけ出して天に帰らなければ…。


男は、もう少し娘と一緒にいたいと思ったことを、激しく後悔していました。


娘の愛と優しさに触れ、己の立場を忘れ、娘を愛したのがいけなかった。


為さねばならぬ天命がありながら、己の欲のために、それを軽んじてしまっていた。



愛さなければよかった。


娘が身ごもってすぐに羽衣を返してもらっていればよかったのだ。

いや、そんな約束を反故にしても、無理やりにでも、羽衣を取り返すべきだった。


そうしていれば、天に帰れたのだ。



何のために自分は娘を愛したのか。



天に帰れず、天を治めることができなければ…

天界だけではない。娘のいる、いや、娘と我が子のいるこの地上にも災いをもたらすことになるのだ。



自分は己の欲のために
愛する者たちを不幸にするのだ。



「ああ…何としてでも、羽衣を見つけなければ…!」




と、その時、川上の方から、子供の声が聞こえてきました。



男が振り向くと、

なんと、黄色い羽衣が雪に紛れて、ふわふわと空を舞っているではありませんか!


男は雪を蹴って一目散に駆け出しました。



羽衣は川の方に飛んでいき、川の中ほどの岩の上に落ちました。



男は迷わず川の中に入り、流れに逆らい、川上に向かってジャブジャブと歩きました。




そして、見たのです。



上流に、自分と同じように川を渡る娘を。




「馬鹿者っ!何をしているっ⁈」




けれども、川の音にかき消されて男の声は娘には届きません。



「戻れっ‼︎戻らぬかっ‼︎」



娘は今にも川に流されそうになりながら、必死に羽衣のある岩に向かっています。



「戻れーーっ‼︎」



娘のかじかんだ手がやっと羽衣を掴みました。



そして、次の瞬間


娘の体は傾いて


流れの中に沈みました。




しっかりと握られた
黄色い羽衣が


娘と一緒に


白い泡に呑み込まれていきました。