なんとしてでも、羽衣を見つけ出して天に帰らなければ…。
男は、もう少し娘と一緒にいたいと思ったことを、激しく後悔していました。
娘の愛と優しさに触れ、己の立場を忘れ、娘を愛したのがいけなかった。
為さねばならぬ天命がありながら、己の欲のために、それを軽んじてしまっていた。
愛さなければよかった。
娘が身ごもってすぐに羽衣を返してもらっていればよかったのだ。
いや、そんな約束を反故にしても、無理やりにでも、羽衣を取り返すべきだった。
そうしていれば、天に帰れたのだ。
何のために自分は娘を愛したのか。
天に帰れず、天を治めることができなければ…
天界だけではない。娘のいる、いや、娘と我が子のいるこの地上にも災いをもたらすことになるのだ。
自分は己の欲のために
愛する者たちを不幸にするのだ。
「ああ…何としてでも、羽衣を見つけなければ…!」
と、その時、川上の方から、子供の声が聞こえてきました。
男が振り向くと、
なんと、黄色い羽衣が雪に紛れて、ふわふわと空を舞っているではありませんか!
男は雪を蹴って一目散に駆け出しました。
羽衣は川の方に飛んでいき、川の中ほどの岩の上に落ちました。
男は迷わず川の中に入り、流れに逆らい、川上に向かってジャブジャブと歩きました。
そして、見たのです。
上流に、自分と同じように川を渡る娘を。
「馬鹿者っ!何をしているっ⁈」
けれども、川の音にかき消されて男の声は娘には届きません。
「戻れっ‼︎戻らぬかっ‼︎」
娘は今にも川に流されそうになりながら、必死に羽衣のある岩に向かっています。
「戻れーーっ‼︎」
娘のかじかんだ手がやっと羽衣を掴みました。
そして、次の瞬間
娘の体は傾いて
流れの中に沈みました。
しっかりと握られた
黄色い羽衣が
娘と一緒に
白い泡に呑み込まれていきました。