「金融政策の正念場」が早くも到来か | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

「金融政策の正念場」が早くも到来か

 

昨年末の本コラムでは、「2022年の金融政策を振り返る」と題して投稿した。

 

そのなかで、「当面の金融政策から目が離せない。2023年は金融政策当局にとって正念場となるだろう」と述べたのだが、新年早々、その正念場が迫りつつあるかもしれない。

 

日銀は「月に9兆円」を目途に国債買入れを行いYCC(長期金利の維持=国債価格の暴落阻止)を行うとしていたところ、何と僅か一日でその半分以上を消化してしまうという、極めて異常な状況に追い込まれた。

 

すなわち報道によれば、日銀は1月12日、市場から4兆6144億円の大量の国債を買い入れた由。

 

当然ながらこれは1日の購入額として過去最大で、日銀が1月17-18日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策をさらに修正するとの観測から、国債の売り圧力(金利上昇圧力)が強まったことが背景にある。

 

こうなると、長期金利の振れ幅を現行の±0.5%からさらに拡大したとしても、すぐにその防衛線が決壊するリスクは高いと言わざるを得ない。

 

マーケット全体を相手に、金利目標の範囲内に国債価格を抑える(暴落阻止)のために莫大な国債買入れを余儀なくされるとなれば、未曽有の資金が世の中に流れ込んで、もはや潤沢な資金供給とか金融緩和といったレベルではなく、明らかに行き過ぎた「資金の洪水」に近い状況になりかねない。

 

年明け以降、巷では「インフレの芽が次々と出始めて、いよいよ本格的なインフレ警戒モードに移行する必要があるかもしれない」との危機感がさらに高まり、政府にも「インフレ対策」を求める声が多数上がっているというときに、日銀が未曽有の規模の国債買入により莫大な資金放出を行えば、インフレに拍車をかけることは必定で、財政政策と金融政策の整合性などはどこかに吹き飛んでしまいかねない。

 

筆者も昨年までは「景気回復が確かなものとなるまでは緩和継続の必要あり」との主張を全否定する積りはなかったが、もはや「デフレ脱却をめざし…」の言葉は現状にそぐわない。中央銀行の最大ミッションがインフレ抑止であることに鑑みると、さすがにこれ以上の洪水的金融緩和には疑問なしとしない。

 

こうしてみると、やはり伝統的な「中央銀行の金融政策では長期金利のコントロールは不可能」という定説は正しかったと考えることが妥当であり、近いうちに日銀はYCCを諦めざるを得ないかもしれない。

 

さすれば長期金利は高騰(国債価格は暴落)せざるを得ないが、これをもって「日米金利差縮小で円高へ」となるかというと、事はそれほど単純ではないだろう。

 

短期的には金利差に着目した市場の動きも一定程度あるにせよ、最終的には日本国債の格付見直しなどを契機に「日本円の信認低下による円安へ」という可能性も視野に入れねばなるまい。足許の株安・円高方向への振れが、「外資による日本株売却に伴う為替ヘッジ解消を映じたもの」との指摘も気になるところである。

 

いずれにせよ、黒田日銀総裁から次の総裁への引継ぎ局面は、かつてない困難が伴うことになったことは間違いなかろう。

 

これまで以上に金融政策から目が離せなくなってきた。