ご両親への花束贈呈のシーン。

結婚ご披露宴のクライマックスの一番、

盛り上がる場面。


たいていは、花嫁が両親にあてたお手紙を

司会者が、代読させていただくことになる。


やはり、司会者のどんな言葉より、

花嫁本人の実際のエピソードの方が、

どんなに両親の胸を打つことか。


実際に花嫁の気持ちは、色々。


ここで、私の主観。

「桑田佳佑は、天才だ。」

あのメロディー、そして、あの歌声は素晴らしいが、

その歌詞の素晴らしさ。


サザンオールスターズの名曲で、

「心を込めて花束を」

という曲がある。


結婚式で歌われることのある、隠れた名曲。

あの歌詞を綴れる「桑田佳佑」は、

結婚式の司会者としても、大成するだろう。


逆を言えば、司会者の名台詞として

使える歌詞。


心に響く言葉を、いくつ頭の中に入れとけるか。

結婚ご披露宴の司会者は、

常に、感動を受け止めること、愛を感じることも

仕事のうちだと思う。



~心を込めて花束を~


夢追う無邪気な子供の頃に
叱られた理由(わけ)が今解るの
今日まで幸せくれた
パパとママに花束を

若さにまかせて家を出た時
励ます言葉が身に沁みたよ
どんなに背伸びをしても
腕の中で甘えてた

期待通りの僕じゃないけど
素晴らしい女性(ひと)に出逢えた
もしも涙が溢れそうなら
御免よ何も言えなくて

笑顔の中には淋しさもある
幸せの旅を憂うばかり
愛するこの女性(ひと)となら
辛いことも分け合える

期待通りの僕じゃないけど
人並みに愛を叶えた
もしも涙が溢れそうなら
時間を止めて抱き寄せて
心を込めて花束を

二人の花嫁がお支度を整え、

ロビーに登場すると一層にぎやかになった。


カメラを手にした友人達に促がされ、

ここでやっとペアになった二人組。



私も、ほっと胸を撫で下ろす。



しかしながら、こうしてウエディング姿になると

二人の花嫁はいよいよ違ったタイプに見える。



兄の花嫁はシンプルな細身のウエディングドレス。

花嫁メイクの上から丸い眼鏡。



弟の花嫁は華やか。

小さな体にフリルのたくさんついた大きなスカート。

ベールも長い。

色白な顔に品のあるメイク。

笑顔が幸せそうだ。



当の本人達は一体どんな気持ちであろうか。



花嫁同士がこうやってそばに立っているこの感じ。

普通なら有り得ない。


ホテルで何組も披露宴を行う場合でも

花嫁同士を合わせることは、まずない。


誰よりも美しく、誰よりも幸せな花嫁を

比較してはいけないのだ。




披露宴が始まり二組が入場してくると、

その珍しい光景に湧き立つ会場。

喜びも二倍といったところだろうか。



ところが、やはり気遣いも二倍となるのだ。

兄の花嫁は、親族がほとんどで列席者はやや少なめ。



かわりに、弟の花嫁は友人がとても多かった。

そのため弟夫婦ばかりにたかれるフラッシュ。

友人の声。



さりげなく二組に配慮しながらの進行となった。

祝辞はご三家来賓に順にいただいた。



兄の花嫁は、職場の上司の看護婦長が

彼女のしっかり者ぶり、

仕事熱心はところを誉めた。



弟の花嫁は、友人が学生時代の彼女の

かわいくてやさしい性格を披露した。

全く違うタイプのお二人だから良かったのかも。



本当にうまく出来ている。



よく似ている双子の新郎だけど、

これ花嫁が逆じゃ

なんかしっくりいかないものね。


高砂席では、兄夫婦が静かにほほえみあってる横で、

弟夫婦が友人に囲まれ記念撮影。

どちらもいいものである。



なごやかな宴も終盤となり、

新郎の父上が挨拶をした。

双子にこれまたそっくりなお父様。



もちろん彼らが似ているのだけど。


おとなしそうな、やさしそうな感じが良く似ている。

お父様は緊張しながらも静かな声で話始めた。




「息子はいつも二人一緒で、とても仲が良かった。

たまに違うことをさせようとしても結局いつも二人。

同じことをして遊んでいました。


転んで泣く時も一緒で一人が泣くと、

必ずもう一人が泣く。

困ったものでした。


学校に上がると心配事がいつも二倍でした。


でも今日、この日を迎えて喜びは二倍。

いや、四倍です。


そしてこのような披露宴に賛成してくれた

二人のお嫁さんのご両親には、

大変感謝します。


ありがとうございました。」



この父親の言葉が、

今日の披露宴の全てを語っていた。



私が余計な気を回していても、

二人にとってはむしろ、

自然なダブル披露宴であった。



定刻通りに無事、披露宴はお開きとなり

四人仲良く、ハネムーンへと飛んだ。




こうなったら、同じ時期に赤ちゃん誕生。


それも互いに双子なんていうのも

楽しいかもしれない。




そしたら今度は、四組八名の

豪華ご結婚ご披露宴なんていかがですか?

合同で結婚式を行うカップルというのは、

ままある話である。


親友同士が、ダブルで海外ウエディングや、

結婚式だけを予定していたお二人が、

式を挙げていない両親と合同で行ったなど。



双子の場合はどうだろう。


たまたま結婚の時期が重なったとき、

結婚式、ご披露宴を合同で行えば、

ご両親、ご親族の手間は1回となる。

続けて2回より、まとめて1回、合理的ではある。



しかし、はたして新郎新婦の心情はいかがなものか。


人生最大の大イベント。


お二人が主役のはずのご結婚ご披露宴が

ダブルキャスト、ダブル主演で行われることとなるのだ。



おそらく、プロポーズの時には想像し得なかっただろう。

そんな双子の合同結婚式の司会をした。


11月22日にご結婚ご披露宴を

行うこととなった二組のカップル。

イイフウフというゴロ合わせで人気の日である。


現れた二組のカップルの新郎は、一卵性双生児。


まさに瓜二つである。

背格好から姿勢、しぐさ、顔までそっくりのお二人。

かけている眼鏡までも良く似ている。



これで似たようなブライダルスーツをお召しになられたら、

どちらがどちらか見分けがつかないであろう。


本当に司会者泣かせである。


しかし、花嫁は全く違うタイプであった。

通常、披露宴では新郎新婦は必ずペアで動く。



たまにお色直しで別々に退場することはあっても

入場の際は必ず一緒。



移動もあいさつも着席も二人は同時に行う。

つまり、花嫁を見て新郎を見分けるのだ。



これなら簡単。


お兄ちゃんのお嫁さんはしっかり者タイプ。

職業が看護婦ということもあってかハキハキと簡潔に話す。



だけど口数は多いほうではなく、化粧化もない。

大きな丸い眼鏡が印象的。



一方、弟のお嫁さんはかわいいタイプ。

小さい顔に大きなクリクリの目。

声は小さいけどキャッキャとよく笑う。

淡いピンクの頬とピンクのグロスが愛らしい。


どこまでもそっくりの双子の新郎、

女性の好みは全く違ったわけだ。不思議。



ご三家のご結婚ご披露宴は十時から開宴。

比較的早い時間から宴が行われるのは、

ハネムーンの都合らしい。



もちろん、旅行もニペア四名様でご出発。

お嫁さんたち、ねえ本当にそれでいいの?



開宴前、ロビーでみかけた新郎は

想像どおりのそっくりさん。



親族にペコペコ頭をさげている姿は

合わせ鏡のようだった。


「本日は、おめでとうございます。」


と挨拶する私に同じタイミングで


「よろしくお願いします。」


この段階で、どちらがどちらか

見分ける必要がなかった私は気楽なものだったが、

困っていたのは新婦のご親族。



「えーと、○○家の叔父ですが、めいがどうも・・」

などと、二人に向かってさぐりながら話しかけていた。


<続く>

新郎新婦の衣装は和装であるが、珍しいものだった。


お二人とも白い衣装である。



しかし白無垢とも違う珍しいものだ。

首からは色々なものがかけられている。

その宗派の祝儀の際の正装らしい。



ホテルの披露宴会場でその姿を見ると、

なんとも不思議な感じがした

ご披露宴会場の中も

普段とは様子が違っていた。


高砂席の横に先程、式場に置いてあった

祭壇が設けられ、お供えもしてあった。



会場の壁には不思議な色の

薄い布がはられていた。


何も知らない列席者が入ってきたら、

おそらく会場を間違えたと思うだろう。




入場の際の音楽も、独自の祝儀の曲らしい。


見慣れない楽器を選ばれしものが演奏をする。



もちろん正装で床に、

ひざを立てた格好での演奏。


しゅくしゅくとした入場を行うとのことで、

きまりセリフの

「盛大な拍手をお願いします。」

は、タブー。



新郎側の皆様なら、おめでたい感じを

味わえる場面であろうが、

何も知らない方々は、びっくりするやら、

きょとんとするやら、摩訶不思議な世界に

入り込んでしまった。



高砂席に到着する前には、

なにやら祭壇前で行っている。



外国人が初めて日本のお葬式に参列し、

お焼香しているのをみて、

「灰を食べているように見えた」

という話を聞いたことがあるが、

儀式の意味合いも分からず、

それに触れたことのない人間にとっては、

不思議千万。



祝辞をいただく方をご紹介するのも一苦労。


席札は戸籍上の氏名なのに、紹介名は違う。



いただいた大切なお名前らしいが、

読み方が難しい。


まさに司会者泣かせ。

読み慣れぬ文字の連続であった。




主賓の方はその宗派のお偉い方。



にこやかなおだやかな面持ちで

とくとくと話されるそのお言葉は、

大変ありがたいもののような気がした。



布教活動の一環でもあるような

その内容を聞き、

何も知らずに参列した新婦側の列席者も

ようやくこの雰囲気を理解しはじめたが、

乾杯へと宴が進んでも、

会場がにぎやかになることはなかった。



みんなおだやかな表情で

食事を楽しんでいるといった感じ。




宴が進むとスピーチが続く。


派手なエピソードの披露なし。

もちろん下手なジョークなしのスピーチ。



新郎新婦も神妙な面持ちで

真剣にお話を聞いていた。


まじめなお二人はこうしてまじめな表情で

幸せをかみしめているのだろうか。



それとも今は神に感謝し、

決意を新たにしているのだろうか。



その表情からは読み取れない。




歌でのお祝いは、新婦の友人が「安室奈美恵」を披露。


高音を力強く歌い上げる、張りのある歌声は

大変すばらしいものだったが、

この会場ではこちらのほうが浮いている感じがした。



わずか二時間弱でこの雰囲気に

なれてしまっている私。


でも改めて宗教とは奥深いものである。

底なしだ。


私にとっては不思議連続の披露宴も

終盤を迎えていた。




余興のとりは、新郎の友人達による楽器演奏。


入場の際に曲演奏をした男性五人組である。



ご紹介をして演奏準備をしていただく間を

色々なアナウンスでつないでいたが、

なかなか準備が出来ない。



一人、小さな筒状の楽器を手にした方が


「ちょっと待って下さい。」



一見、支度が出来ているようなので聞いてみると、

楽器の温度が上がらないとのこと。



その日、外は異常な寒さで

みぞれまじりの雪がちらついていた。


会場内はもちろん暖房が入っているのだが、

それでも楽器の温度が下がってしまったというのだ。


その小さな珍しい楽器は、

温度が下がると音が出ないという

デリケートな代物らしい。




筒に息を吹き込んで暖めている

彼の周りで、準備が出来ている4人の男性が

穏やかに見守っている。



つなぎの言葉も尽き果ててあせる私に、

彼らの冷静さの半分でも持ち合わせていたら・・・。



結局、状況を説明し

準備が出来るまで皆様方には、

お待ちいただくこととなった。


息を吹き込むだけでは、

温度が上がらないと判断した彼は、

持ってきてい電気コンロをつけて暖めだした。



これもなにかの儀式なのかと、

神妙に見守るお客様。


不思議な雰囲気のなか、

私は時間が気にかかる。


会場内には穏やかな時間が流れる。


一人困り果てる私は、

高砂席横の祭壇に目を向けていた。




「神様、私を助けてください。」

宗教の問題は、大変奥が深い。



私が語るには知識がなさすぎる。


日本人は宗教の信仰に

あまり熱心ではないといわれている。


お正月は神社に初詣。

クリスマスはケーキとチキンで祝い、

結婚式は人気のチャペル。



祖父のお葬式は涙ながらにご焼香。

乗っている飛行機が大きく揺れると

「ナムアミダブツ・ナムアミダブツ」

と唱えたりしている。




結婚式をホテルで挙げようとすると、

ホテルの敷地内にたてられた

ャペルでキリスト教式に行うか、

ホテル内式場で神前式を行うか、

または式場か披露宴会場で人前式を行うかとなる。



特別な場合を除いて、

ホテルが契約している牧師、神主が取り仕切ることとなる。

仏前式を挙げたい場合は、祭主をお願いすることとなる。




近年、やはりキリスト教式が人気である。

ヴァージンロードを歩きたいとか、

着物はちょっと似合わないからというのが、理由である。



そこには、カトリックかプロテスタントかという問題はない。



格式高く厳粛に行いたいというご両親の希望で

神前式を選ぶ人達も少なくない。



白無垢で三三九度もよいものである。



全く形式にこだわりたくなければ、

料金も比較的お得な人前式。



日本国憲法でうたわれているとおり

宗教の信仰は個人の自由である。



夫婦であるからといって、

同じ宗教でなければならないというわけではない。



しかし、熱心な信者にとっては、

人生の区切りの結婚式の宗派は大問題であろう。

デリケートな問題だけにややこしい。




2月の立春前に結婚式を挙げるお二人は

落ち着いたカップルであった。



新郎は30代後半、

新婦は30代前半の大人のお二人。



まじめでおとなしそうな、よく似たお二人であった。


どこにでもいそうな普通のカップルが、

珍しいご結婚ご披露宴を行った。




新郎な神党のとある宗派の熱心な信者。


布教活動を職業としている。



新婦は市立病院の看護婦であったが、

この度の結婚を機に退職。


今後は新郎と共に布教を行うとのこと。



新郎ご家族皆さん同じ宗派であるが、

新婦は違っていたらしい。



彼を愛し、理解し、心を決めたことになる。


結婚式、ご披露宴とホテルで行う予定だが、

結婚式はホテルの会場を借りるだけ。


新郎のご信仰の宗派の形式で

行うこととなったた。


全て持ち込み。



祭壇から衣装、清めの水まで全てである。



色々とゆわれのあるものなので、

代わりの物ではだめなのだ。


本当に奥が深い。



しかし、私はご結婚ご披露宴の司会者、

結婚の儀と違い、祝宴であるから

ご信仰はさほど関係ないと思っていた。


ところが、その考えは甘かった。

<続く>